研究課題/領域番号 |
15K02263
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
伊賀上 菜穂 中央大学, 総合政策学部, 准教授 (10346140)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 亡命ロシア人 / 旧満洲 / 文学 / 移民 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、「満洲国」時代(1932-1945)に日本人作家が文学作品の中に描いた旧満洲亡命ロシア人の表象を分析することで、日本人の対亡命ロシア人観の特徴とその通時的変化を考察することにある。平成27年度は、1920年代から1945年までに日本人作家が書いた亡命ロシア人関連作品を分析し、「美しいロシア人女性」というステレオタイプの有効範囲を検証した。 対象とする時代においては、日本の大陸進出政策を反映して、日本人作家たちが描写する亡命ロシア人の属性、および作家自身と亡命ロシア人との関係が時とともに変化している。1920年代には日本に住んでいる作家が日本国内に在留している亡命ロシア人について書いたり、短期旅行者としての体験、あるいはまったくの想像に基づいて、大陸の都市部に住む亡命者たちの生活を描いたりするケースがほとんどであった。しかし1932年の「満洲国」建国とともに大陸に渡る日本人が増加し、現地での長期にわたる経験や知識に基づいた作品が主流となっていった。 こうした流れの中で、1920年代には恋人やショーガールとしてその性的魅了が強調されてきた都市部のロシア人女性たちが、しだいに生活苦に喘ぐ者としてその否定的側面も描かれるようになり、これまで恋愛対象とされてこなかった農村女性のほうが、むしろ理想化される傾向にあったことが、明らかになった。 この分析結果は8月初旬に千葉県幕張で実施された国際中欧・東欧研究協議会(ICCEES)世界大会において口頭発表した(報告言語はロシア語)。 この他、満洲亡命ロシア人に関する研究の一環として、上記ICCEESにおいて「20世紀前半の中国におけるロシア正教会と古儀式派」パネルの司会を担うとともに、A. M. カイゴロドフの随筆「満洲:1945年8月」の前半部分を翻訳し、学術雑誌『セーヴェル』第32号に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成果報告発表はやや遅れ気味であるが、資料収集に関しては、当初計画していた「満洲国」時代の作品より広い範囲で調査を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は前年度に引き続き、満洲国時代およびその前後の時代に日本人作家が発表した諸作品の特徴を分析することで、様々な政治的状況が亡命ロシア人女性の文学的表象に与えた影響について調査を進める。 初年度に引き続き満洲亡命ロシア人関連資料の収集を進めるが、当初予定していた中国東北部での調査は、図書館の移転などで調査が困難であることが判明したため、日本国内での資料調査を中心とする。調査内容の一部は今年度中にウェブ上での公開を目指す。 平成28年度は日本語文学作品に表れる民族間結婚、混血のテーマについて考察を進めるとともに、第二次世界大戦終了後に発表された作品にも注目したい。前者については国際会議で口頭報告をするべく、現在申請中である。 平成28年7月には、生田美智子大阪大学名誉教授との共催で「女たちの満洲とその後」と題したシンポジウムを開催する予定である。本研究課題側では、元トロント大学教授のオリガ・バキチ氏らに、「文学・映画に現れた亡命ロシア人の表象」に関する報告を依頼する。これにより、満洲亡命ロシア人自身による自画像、および欧米における亡命ロシア人像の特徴が明らかになることが期待される。シンポジウムの内容は学術雑誌『セーヴェル』に掲載し、最終年度(平成29年度)のロシア、ヨーロッパでの調査につなげる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
日本国内で開催された国際会議(ICCEES)の参加費・滞在費に対して勤務校からの補助が得られた。その後3月にアメリカで開催される国際会議への参加を計画していたが、最終的に報告パネルが不採用となり、渡航が中止となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に実施予定の学術シンポジウムの準備費用、および報告者招聘の費用の一部に当てる。
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