平成30年度は当初予定していた3年間の研究期間を1年延長し、これまでに収集してきた資料の補完と整理、およびその分析と発表を実施することで、旧満洲亡命ロシア人の文学的表象の解析を進めた。 まず、第9回スラヴ・ユーラシア研究東アジア学会にて、満洲国時代に長谷川濬と檜山陸郎が描いた三河コサックの表象の特徴について報告し、作者らが実在のコサックに接球するにしたがい、彼らと日本人との距離を意識する傾向が見られることを指摘した。報告内容は論文として書き直し、学会事務局に提出した。同学会ではまた、ロシアのモンゴル学・仏教学・チベット学研究所上級研究員のS. G. ジャンバロヴァ氏に、現代ロシア文学におけるアジア系民族(特にブリヤート人)の表象の特徴についての報告を依頼した。ジャンバロヴァ氏は「Image of Asians in Russian popular literature of the 21st century」のタイトルで報告し、現代の通俗小説の中でブリヤート人に対する偏見が見られることを指摘した。 2月には、国際シンポジウム「非日常における女性たち」(大阪大学中之島センター、2019年2月9日)の組織と運営に従事するとともに、「小説の中のロシア系エミグラントと日本人との結婚:『満洲国』の枠組みの中で」と題した報告を行い、1930年代から現代までの作品の分析を行った。具体的には、1930年代後半から1950年代には、日本人男性の植民地感情を色濃く反映した作品が大半を占め、戦後はソ連侵攻による「逆転」のショックと過去のロマン化が見られること、一方で、愛国的フィクションに隠された「排除の物語」も存在することを明らかにした。 この他、収集した文学作品のデータベース化を進め、その一部を加工してネット上で公開した。
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