研究課題/領域番号 |
15K02271
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中嶋 隆 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (40155718)
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研究分担者 |
野村 亞住 国文学研究資料館, 研究部, 特別研究員 (30710561)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 独吟連句 / 近世初期文芸のジャンルと様式 / 沾徳点蘭台撰「置く扇子歌仙 / 其角点「世渡りや」歌仙 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、談林俳諧を中心とした独吟連句に着目してそのデータベースを作成し、いわゆる俳諧や散文作品への影響・展開を視野に置きつつ、談林俳諧の表現方法と連句作法の特徴について分析することにある。そのためには独吟連句の翻刻・テキスト化が必須の作業となるが、さらに俳諧師ごとの傾向や俳諧手法の解明、季節・季語・式目・付合語・付筋などについて、そのデータベースを基に分析する。 前年度に引き続いて、独吟連句のデータベースを作成する作業を行っている。未翻刻の俳書については、原本や複写から翻刻を行っている。独吟連句を含む貞門・談林俳書は、99書(寛永年間10書、正保年間3書、慶安年間6書、承応年間2書、明暦年間3書、寛文年間24書、延宝年間49書、天和年間2書)に及ぶが、未翻刻の俳書は61書あり、その翻刻作業を遂行中である。この作業は主に博士課程在籍大学院生と専任講師(任期付き)の研究協力者が担当し、研究代表者が統括したが、研究協力者のやむ得ざる個人的事情から、この作業が遅延した。 データベースを基にした分析結果から、談林俳諧独特の手法や、貞門・蕉風連句との類似と相違とが具体的に分析できる。また、散文への影響を視座に置くことにより、俳諧・小説・演劇といったジャンル別研究を総合的に考察することが可能となる。この観点から、研究代表者は「近世初期文芸のジャンルと様式」について考察し発表した。貞門・談林・蕉風連句の比較検討作業はまだ緒に就いたばかりだが、芭蕉没後の蕉風連句の傾向を、点巻を解釈することで把握した。30年度は、水間沾徳が批点した大村蘭台撰「置く扇子歌仙と其角点「世渡りや」歌仙を注解した。両巻とも新出資料である。また、新出の「玄札点賦何笛百韻」「友貞点百韻」「北枝点歌仙」もすでに注釈を終えているので、次年度に発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究協力者の介護・出産等のやむ得ざる諸事情から翻刻作業が遅延している。すでに活字化されているものでも、原本にあたって校訂し、難字については、前年度と同様に検討会を開いて判読している。未翻刻の俳書については、特に慎重に翻刻作業を行っている。30年度は、研究協力者として翻刻作業を行っていた博士課程院生の作業時間が前述の理由から減じたこともあって、データベース化の作業が滞ったきらいがあった。 前年度から研究協力を依頼した専任講師(任期付き)と作業を分担し、ある程度はデータベース化作業が進んだが、正確な翻刻を行うために、依頼できる判読能力をもった研究協力者が限られてしまった。今年度も作業を継続し、翻刻のペースを速めるようにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、俳諧語彙の分析に留まらず、散文作品の背景となる言語感覚を解明することも目的の一つとしている。この分析結果は、俳文や浮世草子等、俳諧師による散文作品の文体について新たな考察を試みるのに有益な視点を提供する。研究代表者は、これまで、西鶴作浮世草子の検討に際し、西鶴『独吟一日千句』を用いて分析を行ってきた。『独吟一日千句』以外の西鶴の独吟連句と浮世草子との関連については、特に重点的に取り組みたい。 元禄期、蕉風俳諧全盛の中で、なお貞門派の俳諧師たちが命脈を保ち続けたのに対して、談林俳風は継承された側面もあるが、俳諧流派としての談林は霧消してしまった。談林俳人たちの、俳諧以外への活動に目を向けることは、本研究の分析を相対化し、文化表象としての文芸を史的に考察する上でも特に重要に考えている。 前年度と同様、翻刻・資料紹介に努めるが、最終年度にあたる本年度は、データの分析に重点を置きたい。本研究では、貞門期からの独吟連句を対象とし、テキスト化した上で、付合語・季語・興行時期・興行場所・付合手法等、さまざまな観点からの分析が可能となるデータベースを作成することで、これまでの研究では、いささか軽視されてきた談林俳諧の全体像を究明できるとの見通しがある。本課題の研究成果は、適宜、学会や論文等で発表し、作成したデータベースに関しては、今後の研究の発展のためにも、公開することを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
介護・出産によって研究協力者による翻刻作業が滞ったので、当該年度は謝金の未使用額が生じた。次年度は、翻刻・入力作業の謝金を主に支出する予定である。
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