本研究の目的は、初期俳諧の独吟連句のデータベースを基に、散文作品との文体的関連や様式性を視野に置きつつ、特に談林を中心とした連句の表現方法や独吟の特性について分析することにある。そのためには独吟連句の翻刻・データベース化が必須であることは言うまでもないが、さらに季節・季語・式目(「句数」「去嫌」等)・付合語・付筋などの連句手法の具体的な解明が必要となる。 前年度に引き続いて本年度も独吟連句の諸本調査を行い、データベースを作成する作業を行った。未翻刻の俳書については、原本や複写物から翻刻を行っている。独吟連句を含む貞門・談林俳書は、99書(寛永年間10書、正保年間3書、慶安年間6書、承応年間2書、明暦年間3書、寛文年間24書、延宝年間49書、天和年間2書)に及ぶが、未翻刻の俳書は61書あり、本年度もその翻刻作業を継続した。翻刻作業は大学院生と講師(任期付)が担当し、研究代表者が統括した。データベースを基にした分析結果と連句の注釈作業から、談林・貞門・蕉風連句の類似と相違とが具体的に考察できる。この方針に基づいて、本年度は、友貞が批点した「老いぼれも」百韻(新出資料)、また玄札点「賦何笛」百韻(新出資料)の翻刻・注釈を大学院生とともに行った。 さらに韻文と散文、演劇と小説、評判記という異ジャンルが未分化のまま展開した十七世紀の文芸様式について、昨年度は「ジャンルと様式」という観点から『市野や物語』『傾城百人一首』を例に考察したが、今年度は芭蕉の俳文に影響を与えた木下長嘯子の歌文集『挙白集』にみられる引用を詳細にあとづけ「ジャンルと様式」についてさらに考察を深めた。
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