昨年度まで、「風景表象」について考えるための理論的概念の形成にも留意したが、最終年度は、それを踏まえて具体的、実践的な考察を中心にするよう心がけた。その中心は、「東京」と言う都会に焦点を当て、そこから生み出される「土地の惣菜力」を明らかにする作業である。とりわけ、生誕150年を迎えた夏目漱石が描く「東京」は、文学作品において、このテーマを考える格好の素材である。平成29年9月に開館した新宿区立「漱石山房記念館」は、立ち上げの折から協力したこともあり、そこでの開館準備作業は、いろいろな課題があるにせよ、この問題を考える良い機会にもなったと思う。「東京」、特にその山の手が、どう作品に投影しているかは、学術的にも大切なテーマであると思う。 比較的短文の文章で、この点の研究成果を、新聞などいろいろなメデイアで発信する機会に恵まれた。研究の成果発信においては、十分実績になったと思う。その総決算は、年度内に刊行できなかったが、平成30年6月に刊行予定の単著「漱石の地図帳」(大修館書店)にまとめることができた。 その他、この1年は、全国各地で講演・研究発表の機会に恵まれ、鎌倉・松山・熊本・金沢・札幌に出張し、調査を深めることができた。その一端は、活字の形でまとめられている。漱石が中心ではあるが、「東京」と地方都市との関係を考える良い機会であり、地方の研究者や郷土史家とも情報交換できたことは、今後の研究に役立つことと思う。 漱石以外でも、正岡子規・高浜虚子・横光利一・有島武郎・森鴎外・木下杢太郎・徳田秋声などの文学者の営為を考えつつ、「風景表象」の研究の構築に向けて作業をし、幾つかの論文・評論にまとめた。別の単著の計画もあり、成果をそうした形で公にしていきたいと考えている。
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