新しい日本近代文学の分析のためには、従来の「主義」「派」による整理は有効ではない。文学者がどういう「風景」にどのように対峙したかを考えつつ、描かれた「場所」が喚起する独特な世界を跡付けることが大切である。夏目漱石の描く「東京」の「風景」は、主として明治・大正の「山の手」だが、さまざまな「場所」が作品を立体的に支えている。漱石は、作品の中で、「東京」とともに生きたと言える。 そうした視点から、漱石の作品を分析し、「坂と台地のドラマ」「山の手と下町」「現実と想像の場所」などいくつかの方法で、その魅力を明らかにした。漱石とゆかりの正岡子規の営為にも眼を向け、さらに堀辰雄の体験をも合わせて考えた。
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