研究課題/領域番号 |
15K02273
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
宗像 和重 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (90157727)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 編集文献学 / 個人全集 / 本文校訂 / 近代文学 / 原稿 |
研究実績の概要 |
本研究は、近代文学の分野において、編集文献学という新たな研究分野の構築と確立をめざすものである。研究の初年度である平成27年度は、資料の収集と研究を進めるための文献の整備に努め、まず明治期以降の個人全集の歴史的経緯を明らかにするために、その調査とリストを作成する作業を行った。具体的には、国立国会図書館・日本近代文学館・早稲田大学図書館といった図書館・文学館等での調査を中心とし、あわせて書店・古書店等から、近代の個人全集類や関係する参考文献を収集することにつとめた。 とくに力を注いで収集につとめたものの一つは、近代文学の開拓者である坪内逍遥の著書であり、いまだ完備した個人全集をもたない坪内逍遥の全集編纂の可能性を検討することで、近代作家のテキスト・著書の多様な成り立ちを明らかにするとともに、それらを個人全集としてどのように編集することが可能か、実践的に考察するための資料の調査・収集を試みた。 また、近代作家のテキストとして最も複雑な成り立ちをもつ中里介山「大菩薩峠」の本文研究をおこなう資料として、「大菩薩峠」のさまざまな刊本を収集し、本文成立の実態を研究するための資料の調査活動の一環とした。このほか、近代作家の原稿類についても、古書店などを通して、明治・大正期の原稿などのなかから、研究上必要と思われるものを何点か購入した。 また、こうした資料の調査・収集のほか、「近代文学草稿・原稿研究事典」(2015年、八木書店)に、近代の作家の原稿や原稿用紙、また宇野浩二の原稿についての論文を掲載するなど、研究成果の一端を公表することにつとめ、これらを通して、第二年度目以降の研究の展開を期している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の「研究実績の概要」に記したように、資料の調査・収集においては、おおむね当初の予定通り順潮に進展していると考えているが、作家の肉筆資料である原稿類については、必要な資料がいつどのような形で市場に出るかを予測しがたく、若干の資料が予定していた通りには購入できない事情が生じた。また、それに加えて、研究代表者が2016年度から学内で所属を異動することに伴い(政治経済学術院から文学学術院へ)、年度途中から年度末にかけて研究室の移転等の作業のため、必要な資料・図書類を梱包運搬することなどの必要が生じて、十分に活用できない事態が生じた。これらによって、所期の予定よりは多少遅れている状況にあるが、第二年度目以降の研究計画のなかに組み込むことが十分に可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記の「進捗状況」に記したような事情から、当初の予定よりやや遅れている状況にあるとはいえ、それらは第二年度目の研究計画に繰り入れることで十分に対応できると考えている。今後の推進方策については、原稿などの貴重資料の購入については、年度はじめから積極的に古書店等の情報を収集することで、必要な資料を確実に購入できるように努めたい。また、図書館等における資料の調査・収集をより積極的に推進し、遺漏がないように努めるとともに、調査・収集した資料の整理と検討の作業にも力を注ぎ、近代文学における本文生成の実際の過程に目をむけることで、「編集文献学」構築のための基礎的な作業を確実に積み重ねていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の推進において、近代文学の本文生成の実態を把握するための重要な資料として、近代作家の原稿類がある。しかしこれらは、図書館・文学館等に所蔵されているものばかりでなく、古書店等を通して現在も流通する新出原稿にも、目を配らなければならない。ただそれらについては、いつ、どのような形で(どのような価格で)市場に出るかを事前に予測しがたく、臨機応変に対応しなければならないため、当該年度においても当初の購入予定額と実際の使用額には違いが生じることになった。そのため、これを次年度使用額として、新たな貴重資料の購入に繰り入れ、より充実した資料の収集にあてることが研究上有効であると判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のように、作家の原稿類をはじめとする貴重資料については、収集や購入に偶然的な要素も加わるので、年度始めに品目・金額を確定しがたい側面もあるが、次年度使用額として繰り入れることで、より柔軟に有効な資料の収集にあてることができると考えている。このため、必要な資料については、年度始めから十分な検討・吟味を加えたうえで、この次年度使用額を最も有効に活用できる資料類の購入にあてることとしたい。
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