研究課題/領域番号 |
15K02277
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
大谷 俊太 京都女子大学, 文学部, 教授 (60185296)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 近衛 / 前久 / 信尹 / 三藐院 / 後水尾 / 和歌 / 連歌 / 狂歌 |
研究実績の概要 |
1、京都市右京区宇多野の陽明文庫に出張し、資料の閲覧・調査・翻字を行った。(4/18、5/23、6/27、7/11、8/1、8/21、9/11、10/15、10/31、11/14、12/22、1/23、2/2、3/16 の計14回) 2、陽明文庫一般文書と密接な関係がある資料の閲覧収集のため、宮内庁書陵部に出張し、桂宮文書のうち、智仁・智忠親王と交わりのある宮家・公家・連歌師の書状・詠草類等の閲覧・調査・翻字を行った。また、一部の資料については紙焼き写真による収集を行った。宮内庁書陵部に出張した際、東山御文庫の資料についてもカードやマイクロフィルムによって調査を行い、江戸時代前期の宮中の和歌関係資料の紙焼きによる収集を行った。 3、京都大学文学研究科国史学研究室所蔵の中院家文書・勧修寺家文書を閲覧・調査・翻字を行った。また、一部の資料については紙焼き写真による収集を行った。 4、上記1・2の調査により閲覧・収集した資料を解読し、これまでに既に閲覧・翻字を行ってきた私の調査ノートと合わせて、収集した資料の一部について内容による整理を行った。特に近衛前久・信尹の関連資料を中心に、それぞれ詠草、自筆書状、関連文書、聞書、覚書、その他に分類整理を行う作業を進めた。そのうち、詠草・自筆書状・聞書については、できるだけ原本に忠実に翻字を行うことを目指した。上記の整理された資料のうち、約1000点についてデータベース入力を行った。(学生アルバイトによる入力を含む) 5、論文「近衛信尋筆、狂歌合『玉吟抄』本文と校異」(『国文論藻』17)と「 宗養・紹巴と近衛前久――近衛家の歌学と連歌――」(『連歌俳諧研究』133)を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度も陽明文庫に実際に赴いての閲覧・調査・翻字作業を計14回行うことが出来た。年々研究時間の確保が難しくなっている状況と、所蔵者側の閲覧者への対応に限度がある中で、これだけの回数の調査を行うことができたことは、直接に一次資料を研究対象とする本研究の長所・利点を効果あるものにする基礎的条件を確保することができたものと考えられる。上記の調査・翻字を行った資料を整理し、約1000点についてデータベース入力を行った(学生アルバイトによる入力を含む)ことは、原資料の翻刻・解読に高度な専門性を必要とすることを考慮すれば十分な成果であると思われる。 論文「 宗養・紹巴と近衛前久――近衛家の歌学と連歌――」を学会機関誌『連歌俳諧研究』133号、 2017/09/01に掲載した。これは前年度に俳文学会において口頭発表を行った用の一部を論文としたものである。近衛前久書状を読むことで、前久と当代を代表する連歌師である宗養・紹巴との関わり方の実際を明らかにし、前久の歌学に於いて連歌からくる知識の割合が少なくなく、前久や信尹の和歌をも彼等が指導していることから、前久における和歌・連歌一体観を実証し、和歌に固執する必要のない摂関家ならではのサロンの開かれた柔軟な雰囲気が醸成されていたことを指摘した。 また、論文「近衛信尋筆、狂歌合『玉吟抄』本文と校異」を『国文論藻』17号に掲載した。『玉吟抄』は叡山文庫所蔵本のみの孤本とされてきたが、信尋筆写本が陽明文庫に伝わることを見出した。信尋筆本は、慶長十三年写の叡山文庫本より書写年次は下るが、天文十年の元奥書を持ち、成立後十年ほどにおける書写本をもととする本で、叡山本の欠落を補えたり、本文の内容的異同に関しても意味不明であった本文を校訂できるなど、信尋筆本の優位性を多くの箇所で指摘できる。その本文と校異を提供した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の特長として、自筆資料などの豊富な一次資料を研究対象として扱っていることが挙げられる。原資料であるからこそ得られる書誌情報や関連資料によって、読解の精度を増し時代の空気を把握し、近世初期宮廷歌壇というものを総合的に捉えるために、陽明文庫に実際に出張し閲覧・調査を行うことが大変重要である。今年度も出来るだけ多くの機会を作り出し、陽明文庫に出張することに心懸ける。 昨年度から近衛信尹の資料について重点的に閲覧・調査を行っているが、信尹書状の場合、例えば一点と記載されている資料が書状三十通程を継いだ巻子であったりなど、予想を上回る分量のものが伝存しているため、今年度も引き続き信尹関連資料の調査を進めつつ、合わせて信尋の詠草・書状類にも調査の手を拡げて行くこととする。 調査・整理を終えた資料についてはデータベース入力を継続する。さらに、これまで入力したデータの正確を期するために全般に渡っての校正作業を始める。 また、陽明文庫所蔵資料と補完的関係にある宮内庁書陵部・東山御文庫・京都大学などに所蔵される近世宮廷歌壇関連資料について調査を進め、より具体的・立体的に近世初期宮廷歌壇の実態の解明を行う。
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