平成29年度の調査では、プロレタリア文学が、モダニズム文学と、歴史的視点を重んじる同時代思想の文脈で関わることを明らかにした。プロレタリア文学は、通例近代文学史で、モダニズム文学の系統に並べられない。しかし、歴史的な時間認識をふまえた理論を展開する点では、共通しているのである。昭和初期に、モダニズム文学、プロレタリア文学は共に、歴史的な視点から現在を批判し、未来を志向する理論を展開している。 以上のような観点から、特にプロレタリア文学側の、歴史認識を調査した内容を論文としてまとめたものが、『京都ノートルダム女子大学研究紀要第48号』(2018.3)に掲載した「小宮山明敏と同時代文学」である。小宮山明敏は、プロレタリア文学理論家の中でも特に、具体的な歴史記述を志し、モダニズム文学を含むブルジョア文学の特質を積極的に分析した。そのブルジョア文学に対する批評の視点に、歴史を発展と位置づけるプロレタリア文学側の認識が現れている。この平成29年度の調査により、本研究計画が対象とする、モダニズムに関わる同時代文脈のひとつを明らかにすることができた。モダニズム文学は、総称されるその名の通り、進歩する技術や感覚の高速化を肯定する志向がある。平成28年度の調査で明らかにしたとおり、モダニストと呼ばれる春山行夫は、同時代の文学を時代遅れだと否定し、来るべき新時代の文学を、新精神として賞揚する発言を繰り返した。一方、プロレタリア文学は、現在を克服すべきブルジョア文化と否定し、来るべきプロレタリア文化の未来を揚言する。プロレタリア文学側は、モダニズム文学をブルジョア文学と位置づけたため、議論の上では対立した。だが、両者ともに、歴史的認識に基づき未来を志向する点で共通しているのである。理論に説得性を持たせるためには、共有される同時代思潮をふまえる必然があったのだ。
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