研究課題/領域番号 |
15K02280
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
位田 絵美 近畿大学, 工学部, 准教授 (30353345)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 近世文学 / 仮名草子 / 挿絵 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目的は、仮名草子の挿絵に当時の読者嗜好が反映されていることを、挿絵分析を通じて解明することである。従来の仮名草子研究では、本文異同や読解に主眼が置かれ、挿絵の解釈や特性の分析は看過される傾向があった。しかし本文は同じまま、改版の度に差替えられる仮名草子の挿絵には、刊行時期・場所によって異なる傾向があり、版元が読者の嗜好を先読みして、売るための挿絵を考案していた可能性が高い。ゆえに、仮名草子の挿絵変遷を分析することは、その作品の享受史を分析することでもある。その意味で、文学研究における挿絵分析は重要な要素を持っている。本研究では、これまで未解明であった挿絵の働きや読者嗜好を、新たに分析する。今年度の主たる成果は『近世初期文芸』第33号に掲載済みである。また、これまでに発表した挿絵研究を取り纏め、著書原稿の執筆にとりかかった。以下に研究内容と成果を示す。 1、昨年に引き続き仮名草子『大坂物語』に着目し、『大坂物語』の挿絵調査・収集を精力的に行い、挿絵内容の整理・分類を行った。 2、従来未解明であった明暦四年松会版『大坂物語』を入手し、その内容を詳細に分析した。明暦四年松会版『大坂物語』が、その形態から上巻のみの刊行であったことを推察し、同書が黎明期の江戸版に当たることを明らかにした。 3、従来の江戸版はごく限られた時期・版元のものを指すが、本研究はそれを狭義の江戸版と捉え、新たに広義の江戸版の概念を提議した。すなわち、明暦四年松会版『大坂物語』のように、まだ江戸版として特徴を完全に有していないものを黎明期の江戸版とする。また、松会・山本九左衛門・問屋らが活躍した時期の版を全盛期の江戸版とし、それが崩れていく時期の江戸版を混迷期の江戸版と名付け、3つを合わせて広義の江戸版と考える。最終年度に当たる平成29年度は、この広義の江戸版の観点で仮名草子の挿絵分析をさらに推進する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
所期の目的に対して、基礎・拡張段階の調査および関連研究などおおむね順調に進展し、次年度以降での更なる発展につながる感触を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度に当たる平成29年度は、『大坂物語』の挿絵変遷を中心に、他の仮名草子の挿絵調査・分析を合わせ、仮名草子の挿絵分類を推し進め、挿絵の持つ意義を明白にする。そして所期の計画を進めるにあたって、常に最新の研究動向にも注視しながら、高い評価が得られる成果になるようにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度末に発注した研究資料文献のデジタル複写代金が、平成29年度に入ってから支払われるため。
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次年度使用額の使用計画 |
文献資料の複写の入手は、4月末までには完了するため、研究計画期間全体を通しての事業実施可能性に影響はない。
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