本研究は、仮名草子の挿絵に当時の世相や読者の嗜好がいかに反映されているかを、挿絵分析を通じて解明することを最終目的としている。従来の仮名草子研究では、本文異同や読解に主たる目的が置かれ、挿絵の分析や解釈は看過されてきた。しかし、近世初期の仮名草子では、本文は同一のまま、挿絵だけが改版の度に差替わる傾向がある。しかも挿絵は、刊行時期・場所によって異なる。これは、すでに流布した本文は容易に変更できないが、挿絵は変更可能なため、版元が読者の嗜好を先読みし、売るための挿絵を考案していた可能性が高い。ゆえに、挿絵がどう変遷したかを分析することは、作品の享受史を分析することでもある。その意味で、文学研究における挿絵解釈の研究は重要な意義と新規性を持つ。研究期間を1年延長した今年度は、これまで発表した挿絵研究の論文を取り纏め、著書刊行の準備を遂行した。すでに入稿済みで、初校待ちの状況である。また、国際的評価の高い英文の学術雑誌への投稿準備を進めた。それ以外の主たる成果は『近世初期文芸』第35号に掲載済みである。以下に研究内容と成果を示す。 1、仮名草子『北条五代記』に着目し、『大坂物語』・『嶋原記』等の挿絵と比較し、それぞれの特質を分析した。寛文8年松会版『大坂物語』の挿絵が最も近いことが判明した。 2、『北条五代記』は、万治2年の京都の刊記を持つが、挿絵の形態は明らかに江戸版のものである。本文内容と挿絵分析によって『北条五代記』がどのような経緯を経て挿絵を掲載するに至ったかを分析した。 3、著書刊行のため、これまでに発表した『大坂物語』・『嶋原記』等の挿絵解釈研究の論文10数本を取り纏め、内容を精査・加筆修正し、新たに書き下ろしの章を加え、出版社に入稿した。現在初校待ちである。2019年秋に刊行の予定。今後も挿絵解釈の研究を継続し、より多くの仮名草子作品の挿絵分析をさらに推進する。
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