研究課題/領域番号 |
15K02287
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
井上 典子 小樽商科大学, 言語センター, 准教授 (70708354)
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研究分担者 |
中尾 佳行 広島大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (10136153)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中世英文学 / 韻律 / 脚韻詩 / 頭韻詩 / 中英語詩 / 定型句 / 後半行 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、「研究の目的」で掲げた2点に貢献する成果を2本の論文において発表した。一つの論文では、14世紀の頭韻詩と脚韻詩の合計10作品を取り上げ、形容詞・副詞の接尾辞である-ly (/i:/)と-lichの観点から14世紀英詩におけるhiatus(母音連続)とelision(母音省略)の問題を検証した。結論として、脚韻・頭韻詩人たちは、自分たちの詩行を写字生・読者に明確に理解してもらうための手段として-ly と-lichというdoublet formsを活用しており、このような共通した詩的技巧を用いていることからも、脚韻詩と頭韻詩という二つの伝統の有機的関係が浮び上ってくると論じた。 他の論文では、頭韻詩(非脚韻頭韻長行詩)の韻律構造、特にa-verseと呼ばれる前半行を支配する韻律規制を論証した。これまでの研究で、頭韻詩の韻律では、韻律強勢の数、非強勢音節の数と位置(行のどの位置に起こるか)だけでなく、非強勢音節の母音の質(完全母音か曖昧母音)も重要な役割を果たしていることが分かってきている。本論文では、頭韻詩人が詩作上、どのようなリズムを選択するかの判断には、これらの条件に加え、tempoというperformance的な要素も重要な役割を果たしているのはないかと論じた。 研究分担者は、チョーサーの詩をオクトシラビックの詩(The Book of the Duchess, The House of Fame)とデカシラビックの詩(Troilus and Criseyde, The Canterbury Tales)に二分し、それぞれにおける頭韻句の調査とその韻律分析を行った。頭韻句の多くは定型化したものであり、それは詩行の長短に拘わらず、脚韻の要請を満たすために詩行の後半行に表れる傾向が分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」で述べたように、2本の論文において、「研究目的」に貢献する研究成果を上げることはできたが、当初、平成27年度に目標としていたの第一の目的(スタンザ形式を持った脚韻頭韻詩の韻律構造を調査し、非脚韻頭韻長行詩の韻律規則との共通点・類似性の度合いを明確にした上で、ME頭韻詩の韻律構造における全体像を明らかにする)を達成できていない。 その大きな理由は、非脚韻頭韻長行詩の韻律構造は、この数年でかなり解明されてきたものの、これまでの研究成果を基に新たな視点で調査すれば、未だ発見されていない、より複雑で微妙な韻律規制があると確信したためである。まずはこの点について自分の納得のいく研究結果を出してから、脚韻頭韻詩の調査に進みたいと思ったため、予定の計画よりもやや遅れていると判断した。 オクトシラビックの詩とデカシラビックの詩において頭韻句のタイプ及びその使用の分布は傾向性を捉えることができたが、その作中における意味機能ないし文体的特徴については十分に踏み込めず、課題として残った。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は、次にラングランドのPiers Plowmanの韻律分析に取りかかる。この作品は大作であるため、当初、最後に調査をしようと計画していたが、「現在までの進捗状況」で述べたように、まずは非脚韻頭韻長行の韻律構造をより明確にしたいと考えたため、次にこの作品に取り組みたい。もちろん、Piers Plowmanの分析を行う上で、同時期に同じロンドンエリアで制作され多くの写本に書き写された脚韻詩との関係も探っていきたい。その後、脚韻頭韻詩の韻律構造の調査に進み、ME頭韻詩の韻律構造における全体像、そして韻律と意味との関わりを明らかにしていきたい。 研究分担者は、チョーサーの脚韻詩において、脚韻構造に頭韻構造が組み合わさることで、脚韻詩はどのような意味論・語用論的な付加価値が加わるかを、認知言語学および語り論の立場から叙述・説明を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に、平成27年度に予定していた資料収集のための海外渡航を延期したため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、今後必要となってくる研究書の購入、および国内外の学会発表や資料収集のための渡航費・滞在費に使用したい。
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