研究課題/領域番号 |
15K02288
|
研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
笹川 渉 青山学院大学, 文学部, 准教授 (10552317)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | イギリス文学 / スチュアート朝 / イギリス詩 / 王党派 / 祝祭 / ランターズ / 初期近代 / 共和制 |
研究実績の概要 |
2016年度の研究成果は以下の二点である。一点目は研究実施計画に記したランターズと王党派の関係性を調査した。初期近代印刷本のデータベースであるEarly English Books Online (EEBO)で、1651年出版のMercurius Politicus の記事にあたり、王党派とランターズの関連性が示唆されている記事の分析を行い、一部ではランターズが王党派として見なされていたことを確認した。これに加え、ランターズが1650年から1651年にかけて活動していた様子を記録した文献と、王党派の詩集や歌集が1651年から52年かけて多く出版されたことに着目し、「共和政府樹立後の歓楽――王党派とランターズ」のタイトルで、研究代表者が所属する学会で口頭発表をした。 二点目は、本研究課題遂行のために収集した資料を使用し、研究代表者が所属する十七世紀英文学会の論集に「『神意にかなわぬ』ソロモン王――『失楽園』における〈虚構ではない〉チャールズ二世の表象」として論文を投稿したことである。王政復古期だけではなく、内乱期以前から共和制下においても、国王がソロモン王として表象されていたことを示すテクストは、国王を言祝ぐ祝祭の一面であったことを示した。ソロモン王の表象は、スチュアート朝の王に対して繰り返し付与されてきたものであったが、チャールズ一世が処刑された直後に、聖職者トマス・ベイリーは国王をソロモン王と賞賛した著作を発表したが、彼の書は1650年代にも再版された。このことはソロモン王としての国王表象が大衆にも広く受け入れられていた証拠であり、王政復古以降の国王表象の受容としてキリストと並んで認めることができる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で示した「ランターズ」と民衆の祝祭の関連の一端を示すことができた点で進展を示すことができたといえる。ランターズを糾弾する側の記録である ‘The arraignment and tryall with a declaration of the Ranters’ (1650) や ‘The Ranters declaration, with their new oath and protestation.’ (1650) に印刷されたランターズのクリスマス・キャロルは、民衆に歌われたブロードサイド・バラッドとの関連を見いだすことができるものである。スチュアート朝におけるクリスマスが国王の賛美と密接に関係し、当時のクロムウェル政府のもとでは、クリスマスの祝祭が弾圧の対象であったことを考えると、クリスマスを高らかに歌うランターズたちが議会派から王党派として見なされていた理由を垣間見ることができる。 民衆の祝祭、ランターズ、王党派の関わりを分析するために、資料採取に際して、大英図書館でEEBOを閲覧し、また1650年前後に書かれた手稿を収集することができた。2016年度までのまとめとなる論考を提出することはできなかったものの、招待講演を含み、研究代表者の所属学会での口頭発表と、研究成果の一部を公表した論文投稿を行うことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究期間の最終年度である2017年度は、これまでに収集した資料に新たな一次資料を加えて読解を進め、論文を完成させることを目標とする。内乱期から共和政府の時代に、弾圧の対象であった祝祭に、ランターズと王党派の作家がどのように参与していたかを文献から明らかにし、不在であった国王との関連の程度を明確にしていく。ランターズの活動が隆盛を誇ったのは一時的であったものの、彼らの中には処刑された国王を糾弾し、自分たちこそが救世主キリストの生みの親であると主張するものもおり、祭りと喧騒を通じて政治的主張を展開した。王党派はテクスト上で自分たちの享楽性を主張し、キリストと同一視した国王の帰還と王政復古を待ち続けた。特に王党派は、詩集と楽曲を通じて享楽を表現しながら不在の国王を賛美した。上流階級に属することの多い王党派の作品は、共和政府下ではランターズの歌や民衆のバラッドと通じるものがあった可能性がある。一方議会派は、王党派の不道徳性を批判しつつ、ランターズに王党派というレッテルを貼ることで反体制派の攻撃材料とした。このように現実に行われる祝祭によらなくとも、テクスト上で再現される祝祭や享楽を通じて、国王を擁護するにせよ批判するにせよ、それぞれの陣営は政治的主張を展開した。 このことを論じるために、2017年度ではさらなる資料採取を行う。昨年度末より研究代表者の所属機関で利用可能となったEEBOと、大英図書館またはFolger Shakespeare Library所蔵の手稿を調査する計画である。これらの内容について、口頭発表と論文投稿を行い、研究成果をまとめることで、初期近代イギリス文学研究に新たな光をあてることを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況により、3年目にも資料採取が必要であることを確認したため、主に旅費の補助として2017年度に使用することを決めた。
|
次年度使用額の使用計画 |
ロンドンの大英図書館、またはワシントンのFolger Shakespeare Libraryに所蔵されている手稿の文献調査をするための旅費として使用する予定である。
|