研究課題
2017年度の研究実績は以下の通りである。宮廷の祝祭に代わるものとして民衆の祭りが一定程度機能していたことを調査した。王党派の詩人たちは、Wakeなどの民衆の祭りを描きながら、国王を賛美するための機会として用いていた。これは、内乱期以前、または内乱期中に出版された王党派の詩集が、共和制下においても出版されていたことから、再版されるテクストを通じて王党派は国王の帰還を祈願し、政治的主張を行っていたと考えられる。例えば、国王処刑後の1650年に出版された、王党派の詩を集めたRecreation for Ingenious Head-peecesは、以前の王党派のアンソロジーを再版したものであるが、それまでに書かれていなかった国王擁護の立場を表明するベージを付加するなど、編集を通じて王党派による政治的主張が見られる。このような例を検証し、国王不在の間に、王党派がテクストの再版により国王と祭りの関係を繰り返し言及することで、祭りの庇護者という形で民衆にも訴えていた可能性を考察した。また、1650年前後に作成されたとみられる手稿の調査を行った。オックスフォードの教会に関係ある人物が作成したとみられる、Folger Shakespeare Library所蔵の Folger MS. v.a.97は、筆記者が娯楽として韻文を転記していたことを伝えている一方、国王を支持する側にいる人物であることも示唆している。手稿の読解に時間を要しているが、十分に研究対象となる資料であることを確認できた。加えて、Folger Shakespeare Libraryで使用することができたデータベース、Literary Manuscripts等を通じて、国外の様々な手稿にアクセスすることができ、本研究課題で参考となる資料を参照することができた。
4: 遅れている
研究最終年度である平成29年度は、論文の完成にまで至らず進捗は遅れている。そのため、平成30年度まで1年の延長を申請し受理された。遅れている理由として、これまで収集した一次資料のうち特に手稿について、十分に読解と分析が進んでいないものがあり、さらなる読解を進める必要があることが挙げられる。特に1650年代に作成された、Sloane MS 37719や、Add MS 37719などについてはさらに時間を必要とする。また、民衆の祝祭について研究を進めていく過程で、その十分な達成にはBroadside Balladに代表される歌や楽曲についての研究を進める必要性が生じたこともその理由である。近年、Angela McShaneが ‘Drink, Song and Politics in Early Modern England’ (2016) で論じているように、酒と歌は政治に密に関わっていることが、初期近代における音楽の研究においても指摘されている。本研究では、歌の意義について十分に踏み込むことはできないが、平成28年度の研究から王党派の歌集を含む詩集が1651年から52年にかけて多く出版されていた事実を踏まえ、今後の研究テーマとして視座に入れつつ、本研究課題でも触れる予定である。
これまでに行ってきた、キリストとしての国王表象(平成27年度)、ランターズと王党派の関係(平成28年度)、宮廷の祝祭に代わるものとしてテクスト上で描かれる民衆の祝祭(平成29年度)について、全体をまとめた論考を平成30年度中に完成させる計画である。平成30年度は大規模に新たな研究調査、資料収集は行わず、これまで国内外で収集した一次資料と二次資料を用い、論文の完成を目指す。以下にその概要を述べる。共和政下に国王が不在であった時、王党派は様々な方法で国王を再現させようとした。その代表的なものが、殉教者として国王を表象するもので、本研究ではクリスマスの祝祭と国王の関係がそれにあたる。さらに、共和制下の王党派はテクスト上で内乱期以前の祝祭や祭りを再現し、そこに新たな意味付けを行っていった。一方、騒擾を起こし説教をしながら世直しを説くランターズは、国王を批判し、王党派にも議会派にも与しない一団だが、議会派からはその享楽性から王党派とのレッテルを貼られた。本来、両者は別のものとしてとらえ論じられてきたが、ランターズの動向と王党派による反体制的な動きには、どこかに接点がないだろうか。以上の点について、前年度までに収集した資料を適宜読み進めながら整理して論文を完成させる。共和制下の文学に新たな論点を提示できるように努めたい。
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