2018年度は、研究代表者が所属する学会での口頭発表の一部に本研究課題の成果の一部を取り入れ報告を行った。共和政下における不在の国王を、王党派は詩の雑録を通じて行った。それはクリスマスといった、王党派が繰り返し行ってきた祝祭日に限定されることなく、民衆の声を利用していたことが明らかになった。例えば、民衆に膾炙していたブロードサイド・バラッドの曲を利用している国王を賛美した作品を王党派の詩の雑録に加えることで、民衆の声を利用しながら王党派の主張を提示している例がある。このような例は、Wit and Drollery (1656)や The mysteries of love & eloquence (1658) などを始めとした、王党派の詩の雑録で見ることができる。これまでの批評において、1650年代に出版された王党派の詩集が、ピューリタンによる社会や政治への抵抗手段と考えられていることを踏まえると、出版を通じて王党派は民衆の声を取り込もうとしたことを指摘する必要がある。 このような動向は、王党派による手稿の筆記を通じても伺うことができる。例えば、William StrodeによるChlorisをテーマにした作品は17世紀に重ねて手稿に筆記された最も人気のある作品であることが指摘されているが、実は恋愛詩の枠組みを用いて王家への賛美が提示されており、さらに音楽という手段で国王の復帰を民衆に訴えた可能性があることを口頭発表で提示した。例えば、John Playfordの歌集によって1650年代に広まった可能性は重要であることを示し、歌の形式をとった王党派の作品は民衆に彼らの主張を広めるための手段となっていたことを考察した。 本研究課題の成果は2019年度中に論文として発表予定である。
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