研究課題/領域番号 |
15K02296
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
鈴木 実佳 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40297768)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 英文学 / 18世紀 / 寡夫 寡婦 / ライフサイクル / 隠居 / 幸福感 / 社会的正義 |
研究実績の概要 |
文学作品の分析については、社会的正義と幸福感を主軸に、物語の共有のしかたを個人が自らの人生の経緯を手紙などにより吐露することよりも、複数の人物による会話のやりとりを媒介としたダイナミックな共有のしかたについて考えた論文を投稿中である。そこでは、いかに個人的な誠実さを確保するべきかと共に、いかに礼儀を尽くして良き人間関係を維持するかという、時に齟齬が起こる問題が提起されて、個人の幸福感と社会的正義が考察されている。 人々が集い、互いに情報を交換し、文化を学び、そして新たな文化を創っていく空間としてのVauxhall Gardens(ヴォクソール庭園)について小さな論考にした。18世紀のイギリスでの商業娯楽施設は、単に金銭を代償に人々に娯楽を与える施設としての役割だけでなく、王侯貴族から平民まで集うことができる平等性をもちつつ、一方で王侯貴族の臨席を利用して場を特別なものにし、自国で芸術を培うための仕組みを提供する枠組みとして機能した。平等性と特別扱いの絶妙のバランスで人々に幸福感を与えた施設であったが、18世紀末から19世紀には、創意工夫という成功の理由であった志向が経営を圧迫する事態となっていき、閉園となった。 スペンサー伯爵夫人の記録から、寡婦となった後の状況に焦点を絞って研究を進めた。当年度のBritish Society for Eighteenth- Century Studies(英国18世紀学会)の年次学会において、学会テーマが‘Growth, Expansion and Contraction' (成長、拡張、収縮)であった。家族の拡大と繁栄、子どもが独立していった後、そして特に女性の場合、寡婦として残された場合の生活の縮小は、学会テーマに合致したので、未亡人に関する18世紀のアドバイス本、文学作品、そしてスペンサーの記録をもとに、口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
論文の投稿準備が当初予定していたより時間がかかっているため。しかし、当初の予定に関連するかたちで新たな関心をもち、研究は着実に前進していると感じている。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度、University College, London(ロンドン大学ユニヴァーシティ・コレッジ)のCentre for Interdisciplinary Research in Humanities; Centre for Editing Lives and Letters (人文系学際研究研究センター・伝記的資料研究センター)を夏季休暇中などの数週間を使って訪れて、日記や手紙資料の使い方を学び、研究を進める予定であったが、このふたつの研究所の所長であり、後者の研究所の創設者でもあったProfessor Lisa Jardine(CBE, FRS)が亡くなった(2015年10月25日)ため、予定を変更することを検討している。彼女は、エラスムスの研究者であり、女性科学者や文化人に関する考察についても影響力のある学者であった。 研究内容については、当初の予定とともに、以下のような20世紀前半の日本にも関わる側面に手を伸ばしていく。20世紀前半、医学教育を受け、ロンドンに留学し、帰国後、医療に携わり、また著述活動をしていた人物について、2015年にパリでの学会で発表する機会を得た。これは当初は18世紀の当研究とは別個の研究のつもりであったが、その人物が18世紀の代表的文人であるサミュエル・ジョンソンについて考察していたことから、茶を介してジョンソンと日本について考察する機会につながることになった。ジョンソンの著作や言動、交友関係について研究を進めることは、当研究にとってたいへん意味があると考えている。彼の幸福感、正義についての考え方・著作は、非常に大きな影響力をもったからである。また、ジョンソンの生徒として学び、並外れた才能により確固とした俳優としての地位を得たギャリックと、当研究の核となる記録を残したスペンサーはかなり親しかった。
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