研究課題/領域番号 |
15K02296
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
鈴木 実佳 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40297768)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 英文学 / 18世紀 / 社会的正義 / 幸福感 / 仲間意識 / 書簡 / 文化の継承 / 逸脱と寛容 |
研究実績の概要 |
20世紀前半の日本の医者が、18世紀英文壇を代表するサミュエル・ジョンソンをどのように評価していたか、それを通じて古典の教養と新しい科学的知見を知識人がどのように使っていこうとしたのか、また、傑出した人物を単なる「奇人」ではなく社会で受容される博学の文化人として位置づけるのに貢献したものは何であったのか、個人の満足と社会での受容について考察した論文を投稿した。 英国18世紀学会の発表においては、学会全体のテーマ「友と敵」に合わせて、大英図書館で読んだ手稿資料にあらわれた記述を参照しつつ、18世紀の文学におけるシェイクスピア作品の利用(教養の一部であり、共有される知識としての文学作品、そして時代により変遷する関心の焦点)を特に『オセロー』のイアーゴのような友を装う敵に絞って考察した。そこで得られた視点から、友であること(friendship)に関する考え方の変化は、今後さらに注目すべきだと考えている。なぜなら、困難に見舞われた際に(敵との戦いに準えて)、助けの手を差し延べ、人を支える騎士のような友という存在は、理想や物語のなかの登場人物の関係として共有され、理解されている一方で、そのような友をもつ人間関係は実際にはほとんどありえず、現実の生活や教育書での「友」は、18世紀に盛んに交わされるようになった手紙を互いにやりとりする相手として、そこで互いの秘密を共有する相手として認識されているからである。「友」は騎士的奉仕の担い手から、情報管理に重点を移しているのである。この発表をもとに、既に論文を投稿した。 ダラムでの道徳観を焦点にした学会で発表した論文では、小説と個人の記録をもとに、個人の思考や人の意識的努力への信頼と、主観的見解への懐疑の間の緊張とその折り合いのつけかたを論じた。通常出席する18世紀学会とは違った関心をもつ研究者たちに会う学会での発表は大いに良い刺激となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究成果の公表の点では、2016年度に仕上げた論文が2点査読を受けている(2017年5月現在)ので、これらが出版されれば進捗状況の改善が実感できるが、査読結果による。 研究自体については、当初計画とは異なる進め方をしなくてはならない状況にあり、手間取っている部分がある。それは、ロンドン大学のCentre for Interdisciplinary Research; Centre for Editing Lives and Lettersの所長であったProfessor Lisa Jardineの急逝により、当初予定していたような手稿資料の活用に関する学問的理解を深める機会を得られなくなり、別の機会を設定するのが困難であるという事情による。資料を読むことは、着実に進めている。スペンサー伯爵夫人の手紙は、手稿のかたちでロンドンの大英図書館に残っており、そこでの時間を確保しないと読むことができない。1月に3日間という短い期間であったが、的を絞って読み進めることができた。それ以外の、出版物を使って行うことが可能な作業については、射程を幅広くとって多様な側面を考察していくことができるよう、進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
2017年度は、7月から9月までの3ヶ月間ではあるが、「教員研修」期間として過ごすことができるので、それを利用してスペンサー伯爵夫人の資料を読み、また18世紀の女性が関わる出版物を読み進める。6月の「日本オースティン協会」でのシンポジウムの発表に合わせ、オースティン受容(日本の教育の現場でのオースティンによる小説の共有)に関するリサーチを本研究に組み込んでいく。 上記の英国18世紀学会での口頭発表をもとに、日本語による論文を既に投稿しているが、友をもつ幸福感、情報・物語の共有、交友関係破綻の際の当事者の社会での扱い(社会的正義)を軸にしてさらに考察を進めて、英語による論文として学術誌に発表する準備を進める。
|