研究課題/領域番号 |
15K02296
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
鈴木 実佳 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40297768)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 英文学 / 18世紀 / 正義 / 幸福感 / 仲間意識 / 書簡 / 文化の継承 / 逸脱と寛容 |
研究実績の概要 |
2016年度に一旦執筆を終え、査読を受けているサミュエル・ジョンソン関連の論文集出版に向けて、目途がたってきており、2017年度は加筆修正して準備を進めた。この論文は、20世紀前半の日本人医師・文筆家のジョンソン称賛から、共有される文化的基盤としての古典の教養と文人の飄逸さの社会での受容・評価を論じたものである。 2017年1月の英国18世紀学会にて口頭発表した論文に手を加えて、日本語論文とし、その校正の最終段階にきており、2018年度の早い時期に出版予定である。この論文は、セアラ・フィールディング(1710-68)が1759年に出版した小説『デルウィン伯爵夫人』を中心に、18世紀に描かれた友と敵に注目している。ここでは、シェイクスピアの『オセロー』とプロットを共有しながら、それとは異なる正義が求められ、真の友を得ることも、読者の共感と同情を集める悲劇のヒロインになることもできない18世紀小説の主人公の人間関係の空虚感と、そのような社会を描く作家の困難と諷刺の達成感について述べた。 夏のロンドンでは、スペンサー伯爵夫人(1737-1814)の手紙を読み進め、チョートン・ハウスでのリサーチでは女性作家の文献を読むなかで、詩を集めたノートにスペンサーの親友ハウ夫人(1721-1814)を題材にした詩を発見し、それに関する論文執筆準備を進めた。この詩は、ハウとチェスをする機会をもった兄をもつ女性が、そのゲームを文学的民俗的伝統にのせて描写しており、神話や言い伝えの物語の共有と、勝負と正義、ゲーム観戦の緊張と楽しみをうたったものである。 アメリカ18世紀学会においては、18世紀の茶を介した社交性(sociability)に注目し、日本の18世紀の表象との比較を通じて、旅人と商売という動的な出会いの場での発達と家庭の中での安定した人間関係の保持の場で発揮される社交性を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究は概ね当初の予定に近いかたちで進んだが、英語によるサミュエル・ジョンソンを扱った論文の出版に予想以上の時間がかかっている。海外の大学出版会からの出版にむけて数段階の手順を踏んでいるためであり、前進してはいるので、このまま進めていくのが良いと判断している。2018年度に最終的な裁定があると予想される。 他に並行して準備している論文としては、ハウ夫人のチェスと18世紀の詩およびスペンサー伯爵夫人と援助の相手ジャクソンの間の文通を題材としてものがあるが、どちらも英語論文としてアメリカまたはイギリスの18世紀学会の学術誌に投稿することを考えているため、投稿準備が整うまで時間がかかる見込みである。 上記のような海外での出版を目指している論文とは別に、日本での日本語による論文、英語による論文は、少ないがある程度確保し、研究全体としては「やや」遅れていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2017年7月から9月の間のイギリスでのリサーチの結果である手稿資料からとったメモを成果としてまとめていく。このリサーチの記録は、手紙などを読んでとったメモと資料を写真として撮影してきたものである。写真画像としてもっている資料を読んで、文字資料に換えていく。その内容は:1)大英図書館手稿資料室において読んだAlthorp Papersのなかのスペンサー伯爵夫人が残した資料のうち、ハウ夫人との間の文通の一部である。他にも彼女は多くの文通相手をもっていたが、ハウ夫人は特別で、30歳代から1814年に亡くなるまでの間の40年以上にわたり、その多くの期間において毎日手紙を交わしていた。まだ総てをカヴァーしたわけではないが、この交友関係の記録から、両者が共有していた価値観、正義・公正に関わる考え方(双方ともに政治に深く関わる近親者がいたことも検討事項である)、社会のなかで果たそうとしていた役割と達成感について、論考をまとめていく。2)チョートン・ハウス図書館で参照した資料については、手稿資料を含めた一次資料・参考文献ともに、文化的活動と友情を軸に考察し、論文にしていく。1)2)のリサーチからの副産物として生じた関心として、ベンジャミン・フランクリンとの交友を含めて、チェスを媒介とした交友の考察があり、それをさらに深めていく。チェスと対峙するのはおそらくギャンブルであり、スペンサー、ハウらが属する社会階層の人々の娯楽を広いコンテクストに位置づける論考を企画していくつもりである。 別の切り口からの考察として、茶を媒介としてつくられる人間関係について、文学及び芸術表象からの研究を進める。これは、ジョンソンの著作物と社会の中での文人・文化人のスタンスのとりかたについての関心からの発展である。
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