研究実績の概要 |
2016年度に一旦執筆を終え、査読を経て、本年度にも修正作業を進めた論文集があり、本研究計画終了後も引き続き出版にむけた努力を続ける。これは、サミュエル・ジョンソン関連の英語による論文集(共同編集者の一人として関わり、論文も寄稿している)である。ここに発表予定の論文は、20世紀前半の日本人医師・文筆家のジョンソン称賛から、共有される文化的基盤としての古典の教養と文人の飄逸さの社会での受容・評価を論じたものである。 2017年1月の英国18世紀学会にて口頭発表した論文に手を加えて日本語論文とした成果が、「セアラ・フィールディングの『デルウィン伯爵夫人』と18世紀の友・敵・洗練」として『十八世紀イギリス文学研究:旅、ジェンダー、間テクスト性』(東京:開拓社,2018)に掲載された。この論文では、セアラ・フィールディング(1710-68)の小説『デルウィン伯爵夫人』(1759)を中心に、18世紀に描かれた友と敵に注目した。シェイクスピアの『オセロー』とプロットを共有しながら、それとは異なる正義が求められ、真の友を得ることも、読者の共感と同情を集める悲劇のヒロインになることもできない18世紀小説の主人公の人間関係の空虚感と、そのような社会を描く作家の困難と諷刺の達成感について述べた。 前年に得た情報をまとめて、「チェスと社交」と題した論文を『人文論集』69(2019)に掲載した。これは、ハウ夫人(1721-1814)がチェスの対戦を行ったことを題材にした詩に拠る。そこでは、ゲームが文学的民俗的伝統にのせて描写され、神話や言い伝えの物語の共有と、勝負と正義、ゲーム観戦の緊張と楽しみの場になっている。 イギリス18世紀学会においては、‘Transportation, Justice and Creativity’と題して、18世紀の刑罰、正義と文学的創造性に関する論文を発表した。
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