研究課題/領域番号 |
15K02297
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上原 早苗 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (00256025)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イギリス文学 / 英学史 / 受容研究 / ハーディ |
研究実績の概要 |
本研究は、国際ハーディ学会で立ち上げられたプロジェクト、「グローバル・ハーディ」(参加国16カ国)に寄与することを目的とした、日本におけるトマス・ハーディの受容研究である。とりわけ、明治期から昭和初期の出版・検閲制度を切り口に、翻訳テクストに刻印された出版の政治学を明らかにすることを最終目的としている。 本研究は、トランスレーション・スタディーズの知見を活かするものではあるものの、一口にトランスレーション・スタディーズと言っても多様な展開を見せていることから、本研究に最も相応しいと思われるものを選択する必要がある。そのため、今年度は、1)トランスレーション・スタディーズ関係の研究書を集中的に読み、最終的には、台湾、中国の研究者と意見交換をすることで、枠組みが定まってくるという成果があった。2)また、今年度は東京書籍商関係の書籍や内務省関係の資料を収集し、データ化する作業が順調に進んだ。そのデータを基に、明治期の「表現されうるもの」と「表現されえないもの」との境界線を分析し、その一部を研究ノートとして、『日本ハーディ協会ニュース』第78号「文盛堂と『テス―運命小説』」として纏めて発表することができた。3)明治期の検閲とそれに抗う出版社の戦略についてはイギリスの検閲制度と比較しつつ、その研究成果の一部をHardy in Japan:Translators, Translation and Publicationという論文に纏めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画に挙げていたのは、1)東京書籍商関係の資料の収集とデータ化、2)内務省関係の資料の収集とデータ化、3)分析の枠組みの検討、以上の3点だったが、いずれも計画どおりに進んでいる。と同時に、内務省関係の書類を分析するうちに、イギリスの検閲制度との違いを鮮明にする必要が出てきたため、一部計画を修正し、イギリスの出版社の記録を大英図書館に出向いて確認した。また東京書籍商関係の書類を整理しているうちに、文庫本の誕生の意味・意義が思いのほか大きいことに気づいたので、分析対象を円本に掲載された『テス』に絞るのではなく、文庫本に収録されたハーディの小説も取り込むほうが好ましいのではないかと思うようになった。そのため、来年度以降の研究に若干修正を加えることを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は研究が順調に進んだので、このペースを崩すことなく、平成28年度以降も研究を推進する。ただし、本年度の研究により、文庫本の誕生の意味・意義が思いのほか大きいことに気づいたので、分析対象を円本に掲載された『テス』に絞るのではなく、文庫本に収録されたハーディの小説も取り込むほうが好ましいのではないかと思うようになった。したがって、来年度は、分析対象を一部変更し、宮島新三郎訳『カスターブリッジの市長』『遥かに狂乱の群れを離れて』も取り上げるかどうか、慎重に検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究を遂行する過程で、急遽、イギリス出張の必要が生まれた。その予算を残す必要が出たため、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
日英の検閲制度の違いを明確にするため、British Libraryにて出版社の検閲記録を確認する(平成28年度5月現在、実施済み)。
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