研究実績の概要 |
本研究は、国際ハーディ学会で立ち上げられたプロジェクト、「グローバル・ハーディ」('Global Hardy'、参加国16か国)に寄与することを目的とした、日本におけるトマス・ハーディの受容研究である。明治期から昭和初期にかけての出版・検閲制度を切り口に、翻訳テクストに刻印された出版の政治学を明らかにすることを最終目的としている。 本年度はまず、出版社が採用した出版の戦略を念頭に置きながら、広津訳『テス』を分析した。過去4年間で扱った翻訳テクスト5作を振り返りながら、出版・検閲制度がいかに各翻訳テクスト作の最終的な形を決定づけることになったか、を明確にした。 本年度の一番の成果は、Global Hardy at Kent II, held by the University of Kent, U. K. 及びGlobal Hardy at Kent IIIにて上記の研究成果の一部をまとめて発表できたことである。2回の発表により、主として中国語・英語文化圏の研究者と、それぞれの言語圏の出版の政治学について意見交換を行い、それらを踏まえて論文に加えるべき加筆修正点が明確になった。また日本ハーディ協会大会におけるシンポジウム講師として、イギリスの出版・検閲制度について発表したが、この報告は日本の出版・検閲制度についての理解を深める一契機となった。現在は、一連の発表を通して明らかになった課題を踏まえ、発表原稿に加筆修正を施している。最終的には、研究成果は日本の学会誌『ハーディ研究』及びイギリスの学会誌The Journal of Thomas Hardy Societyに投稿する予定である。
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