本研究課題最終年度にあたる2018年度は、次の研究活動を中心に進めた。①アイルランド作家Sebastian BarryのA Long Long Wayに関する英語論文を執筆した(Studies in English Literature 2019に掲載)。②21世紀の世界におけるWilfred Owenの詩的言語の影響力に関する研究を行った(日本英文学会第90回大会シンポジウムにて発表)。③オーストラリアの作家Thomas KeneallyのThe Daughters of Marsに関する論文を執筆した。④パキスタン系作家Kamila ShamsieのA God in Every Stoneに関する論文を執筆した。⑤イギリス、ベルギー、フランスにて、第一次世界大戦100周年をめぐる文化状況についての現地調査を行った。 上記の内容を含めた研究期間全体の成果を、現在、単著としてまとめている。この著書の第一の意義は、英語圏の複数の国の文学・文化を国境横断的に射程に収め、さらに大戦当時のカナダ先住民、中国人労働者、アラブ兵、インド兵、アフリカ人といった、大戦の記憶において周縁化・忘却されてきた様々な存在に光を当てることで、大戦研究のグローバル化に貢献することにある。第二の意義は、大戦の記憶と、今世紀の様々な事象(9/11テロ事件、アフガニスタン戦争、イラク戦争、シリア情勢、イギリスのEU離脱問題、大戦100周年など)との密接な関係を明らかにすることで、大戦の記憶が、我々の生きる21世紀においていかに重要なアクチュアリティに満ちた問題であるかを示すことである。大戦100周年という決定的瞬間の後のタイミングで本研究課題の成果を一つのかたちにまとめて出版することで、文学・文化研究の視座から、大戦の記憶の今日的重要性について、幅広い読者に訴えかけることができると信じている。
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