研究課題/領域番号 |
15K02302
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
遠田 勝 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (60148484)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 小泉八雲 / 民話 / 怪談 / オリエンタリズム |
研究実績の概要 |
本研究の全体構想は、ラフカディオ・ハーンやアーネスト・サトウ、バジル・ホール・チェンバレン等、明治期の英米系作家やジャパノロジストによって英語で書かれた日本の童話・伝説などが、ヨーロッパやアメリカではオリエンタリズム的な「異国情緒」の物語として「消費」されてしまったのに対して、日本では、それらが「規範的」な英語教科書や翻訳によって読まれたために、「伝統的」語りより上位におかれ、そのリアリズムとサスペンスを基調とする近代西洋のナラティブの特徴と、オリエンタリズムに由来する異国情緒が、「辺鄙な地方」に埋もれた「旧時代の物語」をいかに「現代の中央」に蘇らせるかに腐心していた日本の民話・伝承の語り手たちに強い影響をおよぼし、近代日本の新たな伝統的物語の様式である「民話」の「語り」の創出に深く関与していたことを証明しようとするものである。 本年度は、主にハーンによる日本の物語の英訳や翻案を通じて、日本で広く知られるようになった物語を研究の対象として調査し、なかでもハーンの「貉」がいかにして日本の民話に影響を及ぼし、ノッペラボウ物語として地方の口承伝説として流布していったかを考証した。 その成果として、「ラフカディオ・ハーン「貉」とノッペラボウ物語の誕生―「日本」を語るオリエンタリズムと近代日本における「民話」の誕生」(『近代』、115号、2016年12月、19~39ページ)を論文として発表し、また講演として、富山大学ヘルン研究会主催・2016年度第1回講演会(2016年9月29日、於富山大学)「小泉八雲と日本の民話 ―口承と書承の不思議な交流―」として発表した。また、日本比較文学会 関西支部、第52回関西大会(2016年11月12日、於甲南大学 )において「シンポジウム ハーン研究の新展開~ヘルン文庫の活用法~」に参加し、発表および討論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実施計画どおりに、ハーン、チェンバレンやミットフォードなどジャパノロジストによる、日本の物語の英訳や翻案、そして、それらを商業的に刊行した日本の出版社による「長谷川ちりめん本」(とりわけ一八八五(明治一八)年にはじまる英訳「日本昔噺」シリーズ(二〇編、二一冊)の中から、日本に逆輸入され、翻訳や教科書を通じて日本で広く知られるようになった物語に注目し調査を行い、またおもに日本の地方の大学や公共図書館におもむき、地方の口承物語として記録されている民話集を閲覧し、「語られた素材(物語)」の伝播の面から、オリエンタリズムと「民話」の関係を考察した。
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今後の研究の推進方策 |
予定どおりに、来年度は、日本の「民話」運動の中核を担った作家や語り手の作品をとりあげ、彼らが創設あるいは参加した民話運動と日本を語る近代西洋のナラティブの接点に注目し、第二次世界大戦後、彼らがいかにして国家・国民神話に代わる、ナショナルな伝統的語りとしての民話を創出したのかを考察する。 また、平成30年度はこれまでの調査で明らかな事実について、総合的な検討をはじめるとともに、これまでの調査で十分には解明できなかった分野や作家ついての追加調査を行いつつ、それら成果を用いて、研究発表および論文の作成を行い、資料をデジタル化し、多方面で利用しやすい形を工夫して、ホームページで公開する予定である。
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