本研究は、ラフカディオ・ハーン等、明治期の英米系ジャパノロジストによって英語で書かれた日本の童話・伝説などが、欧米ではオリエンタリズムの枠内での「異文化情報」や「異国情緒」として「消費」されてしまったのに対して、日本では、それらが「規範的」な英語教科書や翻訳によって読まれたために、「伝統的」語りより上位におかれ、そのリアリズムとサスペンスを基調とする近代西洋のナラティブの特徴と、オリエンタリズムに由来する異国情緒が、「辺鄙な地方」に埋もれた「旧時代の物語」をいかに「現代の中央」に蘇らせるかに腐心していた日本の民話・伝承の語り手たちに強い影響をおよぼし、近代日本の新たな伝統的物語の様式である「民話」の「語り」の創出に関与していたことを証明しようとするものである。 本年度は前年にひきつづき、ハーンの「貉」の原拠となったさまざまな日本の伝統的物語や説話と、ハーンの「貉」出版以降の日本のノッペラボウの民話・伝説をさらに詳細に検討し、結論として、日本の近代以降に広く流布し、口承を経て採取されたノッペラボウ民話の多くが、日本古来の伝承経由ではなく、ハーンの「貉」の翻訳をもとに改作されたものであることを論証し、その成果を 共著である神戸大学英米文学会編『教養主義の残照―「コウベ・ミセラニ」終刊記念論集―』のなかの「近代日本における『民話』の誕生―ラフカディオ・ハーン『貉』以後のノッペラボウ物語を中心に」(p171-194) (2018年3月、開文社出版)に発表した。
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