研究課題/領域番号 |
15K02303
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
野谷 啓二 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (80164698)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アレン・テイト / 農本主義 / T.S. エリオット / ディストリビューティズム |
研究実績の概要 |
アメリカ南部のカトリック詩人・批評家アレン・テイトの精神世界を明らかにした。彼は1922年に刊行が始まったThe Fugitive誌の詩人で、エリオットに深く影響を受けていた。また、イギリスのカトリック文人、ヒレア・ベロックやG.K.チェスタトンの反近代主義運動、私有財産配分主義(Distributism)に共鳴するアメリカ南部の農本主義運動の主導者としても有名である。フュジティヴ詩人たちの本拠地であり「南部のアテネ」を自負していたナッシュヴィルも、南北戦争後、産業化、都市化の波に洗われ、北部「よりヨーロッパ的な」、「古き良き」南部文化は衰退しはじめていた。テイトは、北部の金融資本主義に支えられる新しい南部を拒否し、家族主義、騎士道精神、名誉を重んじる南部の文化伝統にアメリカの真のアイデンティティを求めた。 モダニズムの詩風を尊重しながらも、信条的には伝統に生きるすべ(哲学)を求める保守的態度は、個々人の判断よりも伝統に結びついた哲学、神学、神話を重んじるべしというエリオットの考えから学ばれたものであった。 農本主義は、ただ単に生活手段としての農業ではなく、手段は生そのものを規定するから重要なのだという南部詩人たちの確信を生み、彼らは農業が必然化する人と人が有機的につながる共同体とその秩序に魅力を感じたわけである。金銭よりも土地の方に価値を置き、土地を所有しそこに住む人は自然と宇宙に帰属しているという観念を共有し、金融資本主義は道徳的頽廃をもたらすとして忌避した。このような農本主義は論文集のI'll Take My Stand (1930)とWho Owns America? (1937)によって主張され、エリオットの側からは南部ヴァージニア大学で行った講演After Strange Gods (1934)の冒頭で賛意が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
論文の形で発表するつもりであったが、そのための準備に終始し、発表に至らなかったという点で「やや遅れている」と自己評価を行った。発表が遅れた理由としては、本来今年度の予定ではT.S.エリオットとファシズムの関係を研究するはずであったが、その前に、彼がモダニズム詩の技法だけではなく、20世紀前半におけるアメリカの工業化、産業化の流れに抗する南部詩人たちの思想的営為の中心人物であった、アレン・テイトに与えた影響関係について研究する必要があると判断したため、研究内容を変更したことがあげられる。
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今後の研究の推進方策 |
本来の研究課題に戻り、研究を進める。さらにテイトの文学研究上の運動であったNew Criticismと保守思想との関連、またエリオットのハーヴァードにおける教授の一人でヒューマニズムの代表的人物であったバビットとの関係についても研究する必要が認められたことは、本研究の射程を広げるものであり、自分自身の評価としては結果的に良かったのではないかと判断している。イギリスのみならず、アメリカ史におけるモダニズム詩とカトリシズムに依拠する反近代主義の流れを整理できると考えられるからである。
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