研究課題/領域番号 |
15K02303
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
野谷 啓二 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (80164698)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ニュークリティシズム / アクシオンフランセーズ / T.S.エリオット / 農本主義 |
研究実績の概要 |
「新批評」は北部のブルジョア・リベラリズムに対する抵抗として南部の農本主義を思想背景に現代社会批判の意図を根底に意識した文学研究運動であった。一般的には、作品の自律性を認め、社会コンテキストと切り離し言語構造分析に集中すると理解されたが、科学実証主義とは別次元の知的探究として、南部の伝統的家父長主義、有機的社会論を基盤として展開された近代産業資本主義を批判する保守の思想運動であった。代表的批評家・詩人はアレン・テイトであり、彼はT.S.エリオットの詩の推奨者であった。エリオットはモダニズム詩論を展開する中で、19世紀的ロマン主義とヒューマニズムを批判、古典主義を唱道した。キリスト教との関連では、テイトと同様「原罪」を信じ、人間の限界を意識化した。 エリオットとパウンドに共通するのは反近代主義思想であり、ファシズムに対する親近観である。母国を棄て欧州に向かった彼らは、南部農本主義者と同じ、金融資本と労働運動の狭間で不安と不満を感じていた都市中間層の、近代啓蒙思想由来の自由主義、合理主義を否定して憚らないファシズムに理解を示した。保守反動主義者エリオットの誕生を告知する『ランスロット・アンドルーズのために』における「文学においては古典主義者」、「政治においては王政主義者」、「宗教においてはアングロ・カトリック」という宣言は、フランスのアクシオン・フランセーズ運動の指導者で王政復古を叫び暴力闘争も厭わないシャルル・モーラスに倣ったものである。「秩序とその守護者としての教会の復活について協働する限り、神を信じていようがいまいが構わない」と、単に教会の権威を借りるのみで、反プロイセン、反ユダヤ、反近代主義を特異なナショナリズムのベールで包むモーラスは、1926年教皇ピウス11世により処断されたが、エリオットは『クライテリオン』誌上においてアクシオン・フランセーズ擁護を継続した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
エズラ・パウンドについての研究が予想に反して進まなかった。また本年度内の研究内容を一本の論文にまとめることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本年五月に上記単行本『オックスフォード運動と英文学』(開文社出版)が刊行されるので、時間的余裕ができるはずであり、本研究課題の最終年に予定しているテーマの遂行に支障がないものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額がそれほど大きくなかったため研究資産となる物品(図書費)に使用することができなかった。また少額文房具などによって帳尻合わせを行うより、次年度に繰り越し、出張旅費として使用した方が賢明であると判断したため。
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