研究課題/領域番号 |
15K02311
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
辺見 葉子 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 教授 (40245428)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | English and Welsh / トールキン手稿原稿 |
研究実績の概要 |
J.R.R. トールキンの「先史」観を、イギリス、オックスフォード大学ボードリアン図書館所蔵の'English and Welsh'の未刊行手稿の調査を通じて行うことを目的とした本研究の一環として、8月22日から9月4日までの二週間の手稿原稿調査を行った。 今回の調査の具体的な成果としては、手稿原稿に複数回に亘って書き記されているが、出版原稿では言及がない、'pound & London'という記述についての、トールキンのいわば思考回路の謎解きが出来たことが挙げられる。この'pound & London'というメモは、K. Jacksonのブリトン語の歴史に関する著書の中で、中期ウェールズ語が英語から借入した語としてリストしている’Llundein, punt’に対応するものだと判明した。すなわち、トールキンはこれをブリテン島における先住民であるブリトン人と、新参のサクソン人の言語的接触の証拠として取り上げよう考えていたわけである。 Londonはローマ時代のソースにおいてLondiniumとして記録されており、明らかに英語がブリテン島に到来する以前のブリトン語起源の言葉であるが、これが再び英語から中期ウェールズ語に借入された事例を紹介することにより、先住の民ブリトン人の言語とサクソン人の言語(英語)との交流の歴史の一端を照らそうというトールキンの意図が明確になった。 トールキンの意図が判明したことにより、手稿原稿の別の箇所の欄外にある、ロンドンの語源に関する書き込みが、『マビノギオン』におけるロンドンの語源に関する言及の引用であることの発見にも繋がった。 トールキンが具体的にLondonという地名の語源からブリテン島における言語の「先史」との接触の過程を説明しようとしていたことが分かり、トールキン以降のLondonの語源研究の成果の調査が今後の新たな課題として浮かび上がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
手稿原稿のトランスクリプションの作業は、判読不可の部分が少しずつ減ってきているものの、困難を伴い完成には時間を要する。二週間程度の滞在だと、筆跡のクセに馴染んだ頃には帰国するタイミングとなってしまうことも効率低下の原因である。総じては「やや」遅れているという評価となったが、上に記した今回の調査の成果のように、全く意味不明であった箇所の謎が解け、新たな研究課題へと結びつく成果も得られた。
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今後の研究の推進方策 |
2018年4月から一年間のオックスフォード大学での在外研究が可能となったため、手稿原稿のトランスクプトの完成に向けては大きな前進が期待できるはずである。 また、5月にはアメリカ、カラマズーで開催される中世学会において「トールキンとケルト」がテーマの研究発表が行われるため、研究者との情報交換により自らの研究の進展につなげたいと考えている。 さらに、6月からボードリアン図書館でトールキン展が開催される。アメリカのトールキン研究者が毎年夏に開催している「トールキン・シンポジウム」(2014年には科研費で私も出張、口頭発表を行った)のメンバーが、6月のオープニングに合わせて集う予定になっており、トールキン研究の様々な分野での第一線の研究者たちとの情報交換も行えるため、本研究の進展にもつなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度は長期海外滞在費用が必要となることが分かっていたため、残額は次年度の滞在費の一部として使用することにした。
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