研究課題/領域番号 |
15K02314
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
松田 美作子 成城大学, 文芸学部, 准教授 (10407611)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | エンブレム / 詩篇歌 / 宗教文化 / 宗教詩 |
研究実績の概要 |
本年度は、近代初期英国のエンブレム集のみならず、「大陸」の宗教的エンブレムに関する資料を収集し、当課題である近代初期英国の宗教文学と宗教的エンブレムの相関を追求した。 その過程で、英国のエンブレム作者たちが、オランダとの交易を通じて、宗教文化においても影響を受けていることが確認された。宗教文学において、オランダのプロテスタントが歌っていた「詩篇歌」をもとにした「詩篇歌集」、いわゆる"Sternhold and Hopkins Psalter"が英国でも広く普及し、それらがどのようにエンブレム文学やジョン・ダンなどの詩に用いられていたか考察し、その成果は「墓石に彫られたフランシス・クォールズと「詩篇歌」-近代初期英国におけるプロテスタント派の瞑想を巡って」(『成城文芸』237・238合併号)としてまとめた。この影響について、さらなる考察を続行する。 このオランダの影響は、17、18世紀の日本にも伝わっている。 とくに、16世紀より日本に伝わっていた西洋の絵入りのイソップ物語は、多く翻訳され、普及していた。そのうち、ゲーラールツによる挿絵の入ったオランダ本の精巧な写しが、部分的に金沢の前田土佐守家資料館に残されている。これらを戦前に発見した新村出氏の文献や実物を調査することができた。 また、江戸期には、「エンブレム」という語がまずラテン語、次にオランダ語"Sinnebeld"が前野良沢ら蘭学者によって「たとえの図」として理解されていたこと、また、司馬江漢がみずからオランダのエンブレム本を参照したスケッチなどを残しており、「エンブレム」の意味を的確にとらえていたことを、日本比較文学会第54回東京支部大会にて発表し、視野を広げることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に、グラスゴー大学図書館において調査した16世紀から19世紀までの英国のエンブレムについて、だいたい整理することができたので、それらと近代初期英国の宗教文学をより的確に関連させることが可能となった。そこでオランダのプロテスタントたちが歌っていた「詩篇歌」が、当時の英国においても人気となって、宗教文化や文学に大きな影響を与えていたことを明らかにできた。 さらに、オランダのエンブレム本を調査することで、予定外ではあるが、日本でのエンブレムの受容研究へと視野が広がった。
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今後の研究の推進方策 |
17世紀英国には、本年度主な調査対象としたフランシス・クォールズのほかにも、エンブレム集を出した詩人たちがいる。今後、彼らのエンブレムも考察し、ジョン・ダンをはじめとする宗教文学との相関について、追求するつもりである。 また、エンブレムに関心を寄せた詩人たちは、カトリック派もいれば、プロテスタント派もいて、彼らの信条の差異がどのように作品に反映されているか、精査できたらと考えている。 そのさい、写本であるヘンリー・ピーチャムのエンブレムや、墓石のような物質文化におけるエンブレム表現も考察対象として取り上げたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、英国グラスゴー大学や大英図書館にて、資料収集を行うつもりであったが、これまでに収集した資料の整理に重点をおいたため、渡英できなかったことが、次年度使用額の生じた大きな理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、Society for Emblem Studiesの国際学会がフランスのナンシーで開催されるため、エンブレム研究の最新の動向について学ぶ機会を得るため、渡欧して資料収集や、研究打ち合わせを行う予定である。
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