研究実績の概要 |
平成29年度は、引き続き17世紀英国のエンブレム作家、フランシス・クォールズ(Francis Quarles)の『エンブレム集』(1634年)が、もととなった「大陸」の宗教的エンブレム、とくにアントニウス・ヴィーリクス2世(Antonius Wierix II)の『愛するイエスの聖なる心』(1585-6年)を、英国の社会的かつ文化的文脈に受け入れられるようどのように改変しているかの調査を進めた。このエンブレム集は、17世紀ヨーロッパで流行したハート(心臓)のエンブレムの代表作であり、そのハートのエンブレム連作は、17世紀の英詩人たち、ジョン・ダンやリチャード・クラショーの作品に影響を与えている。この点を詳しく跡付けることは、本研究のテーマである宗教的エンブレムと文学との相関を明らかにするであろう。今まで考察してきた成果の一部は、"Devotional Emblems and Protestant Meditation in Hamlet"(English Studies, vol.98, no.6, September, 2017), 562-84に組み込んだ。 さらに、17世紀においてクォールズ以上に多作で影響力をもったジョージ・ウィザー(George Wither)の『古今エンブレム集』(1635年)における材源となった「大陸」のエンブレムも調査し、彼のエンブレム以外の作品との関連から、当時の複雑な社会と文学の相関を追求した。 また、7月初旬、フランスのロレーヌ大学で開催された国際エンブレム学会に参加、最新のエンブレム研究の動向に触れ、海外の研究者と意見を交換する貴重な機会を得た。その折、ナンシー市立図書館において、大変充実した16,17世紀の主にリヨンで出版されたエンブレム資料を調査し、収集することができた。フランスにおいて、エンブレム集の出版が盛んであったことを認識することができた。
|