昨年度に引き続き、宗教的図像の調査と考察を行った。マリオ・プラーツが分析したエクス・アン・プロヴァンスのサン・ソヴール大聖堂のニコラ・フロマンの3連祭壇画はじめ、マグダラのマリア像を中心に資料収集を行った。マグダラのマリアは、宗教改革期にポピュラーであったが、それは彼女が改悛した罪人であるからである。改悛ののち子女の信仰の教育を行った彼女は〈堅忍〉の徳を表象する存在であり、それは、エリザベス女王が即位前に英訳したマルグリット・ド・ナヴァールの英訳、A Godly Meditation of the Christian Soulを、1548年にジョン・ベイルが出版したとき、扉絵にマグダラのマリアを想起させるエリザベスの肖像画を挿入したことからも明らかである。 こうした宗教的図像に関して、大英図書館写本室、Folger Shakespeare Libraryにおいても調査した。大英図書館所蔵のヘンリー・ピーチャムのエンブレム写本は、色付きである点がユニークである。その色彩の象徴的意味は、チェーザレ・リーパの『イコノロギア』に影響されている点を〈中庸〉などの枢要徳の擬人像を中心に考察した。フォルジャーでは、17世紀イングランドの写本、Trevelyon Miscellany(1608)における 擬人像を中心に調査した。〈運命の女神〉やヴィーナス像など、多くの擬人像がみられ、この写本がエンブレム的な性質をもつことを確認した。それらもすべて彩色されており、ピーチャムの認識していた色彩の象徴的意味との比較を行った。 これらの図像調査を踏まえ、英国初のエンブレムブック、ヤン・ファン・デル・ヌートの『世俗の劇場』、フランシス・クォールズやヘンリー・ホーキンスのエンブレムの詩文を読み解き、英国の宗教文学の特質を追及し、英・蘭の図像を巡る影響関係を認めた。
|