研究課題/領域番号 |
15K02315
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
吉田 直希 成城大学, 文芸学部, 教授 (90261396)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 経済 / 文学 / 道徳哲学 / 感情 / 商業 / メソディズム / 快楽 |
研究実績の概要 |
本年度は3年計画の中間年にあたる年であった。初年度の基礎的な作業を踏まえ、歴史的・理論的資料を補完しつつ、具体的なテクスト分析を行った。主に以下の2点について成果をあげることができた。(1)経済学と文学が分離へと向かう歴史的過程をアダム・スミスの道徳感情論を中心に検討を行った。従来の文学史的見方によれば、18世紀後半に、信用経済を推進する市場拡大の流れの中で、経済/文学は徐々に互いに他を差別化するようになっていったと考えられてきた。そして、文学と経済が決定的に袂を分かつのは、ワーズワース、コールリッジらによるロマン主義以降であるとする見方が支配的であったが、スミスの感受性理論を18世紀道徳哲学という大きな流れの中で再評価すると、文学、特に感受性小説の中では、感情の商品化とでも呼べるような言説が多く確認できることがわかった。ここからさらに、「想像の快楽」を主張するアディソン、シャフツベリー、さらにはアレクサンダ・ジェラルドやバークに共通する中立的、抽象的な快楽一般を追求する美学に関する文学的言説も商品化された文化の再現を追求している可能性が確認できた。 (2)18世紀中庸のメソディズム運動を取り上げ、宗教における禁欲の表象が近代科学の自然理解とどのような関係を結んでいたのかを明らかにした。特に、精神の物質性に関する議論がなぜ同時代の「悪徳」に結びつけられていたのかを考察するために、スターンの『センチメンタル・ジャーニー』を精査し、従来否定的に描かれることが多かったメソディズムの「熱狂的感情」の肉体性・快楽性を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初の計画に沿って、歴史資料と具体的テクスト分析を開始することができた。また、シンポジウムの準備、発表にあたって、パネリスト相互に意見交換することが多くなされ、発表時のフロアからのコメントを元にさらに課題を広げることが可能となった。メソディズムのテクストのうち、熱狂と狂信の微妙な差異に関する議論に改善の余地が残っている。
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今後の研究の推進方策 |
2年間の計画がほぼ順調に進んでおり、今後は成果を具体的に口頭発表、論文によって行っていく。
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