本年度は最終年度に当たるため、これまでの研究を総括し、学会発表と研究論文によってその成果の一部を発表した。まず、初年度に取り上げた公共圏文化の歴史性を再検討し、特に経済と宗教の観点から18世紀の消費空間でますます重要になってきた軍事財政国家の問題を明らかにした。具体的には1720年以降ウォルポール政権下でなされた経済政策が対フランス外交政策と緊密に絡み合い、軍事費の増大を可能にした点に注目し、この時期の文化の商品化が近代経済学の誕生を推進していた点を複数の文学テクストによって再確認した。具体的には、デフォーの『ロビンソン・クルーソー』やスウィフトの『ガリヴァー旅行記』に顕著に見られる諷刺を外交史、軍事研究、経済学史の関連資料とともに精査することにより、文学の政治性(ホイッグ史観)を明らかにした。次に、28年度に行ったアダム・スミスの道徳感情論を18世紀道徳哲学という大きな流れの中で再評価し、文学、特に感受性小説の中では、感情の商品化とでも呼べるような言説が確認できることをマッケンジーの『感情の人』によって精査した。さらに、メソディズム運動における禁欲の表象が近代科学の自然理解とどのような関係を結んでいたのかをフィールディングの作品によって検討し、メソディズムの「熱狂的感情」の肉体性・快楽性を再確認した。その上で、研究成果の公表を日本英文学会東北支部のシンポジウムと日本ジョンソン協会の論集にて行った。
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