今年度は、王政復古期に上演された演劇を、1640年代の内乱、王位継承排除危機と名誉革命という三度にわたる政体の危機への介入という観点から再検討し、ときどきの政治的な状況に対応して役割を果たしていた重要な政治的メディアとしての役割に焦点を当てた。特に、演劇が、1640年代の内乱、共和国やオリヴァー・クロムウェルによる護国卿体制をどのように直接、間接に表象したのか、そして1678年におけるタイタス・オーツの教皇主義陰謀事件以降、王位継承排除危機が進行していく中で、演劇が、1640年代の内乱の表象のヴォキャブラリーを再利用し、ときに新たなイメージを創造することで、この政体の危機に介入しようとしたのかを分析した。 これまでに、王政復古期演劇が内乱期の忌まわしい記億をあえて呼び覚まし、その記憶を茶化し、風化させるという機能を果たしていた点で、ときに理性的でときに排他的で党派的でもあった、18世紀の文芸的公共圏の先駆であったことを明らかにしてきたが、従来の研究では非政治的とみなされてきた王位継承排除危機が勃発する1678年の演劇にも政治的な意味が確認できることを研究した。 今年度は、研究の総括の一環として、劇作家ウィリアム・ウィッチャリー(1641-1716年)の第3作の喜劇『田舎女房』(1675年1月12日初演)を取り上げ、王政復古期のコメディ・オヴ・マナーズに見られるアンビヴァレンスが、ロンドンのタウン(後にウェスト・エンドと呼ばれる空間)においてどのような政治的な機能を果たしていたのかについて考察し、論文にまとめた。研究成果は、2020年4月に刊行される論文集『コメディ・オヴ・マナーズの系譜――王政復古期から現代イギリス文学まで』に掲載される予定である。
|