研究課題/領域番号 |
15K02318
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
五十嵐 博久 東洋大学, 食環境科学部, 教授 (20300634)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ハムレット / マクベス / 家庭劇 / 宗教的道徳観 / 法治 / ファースト・フォリオ / 18世紀 / 共作 |
研究実績の概要 |
口頭発表としては、関西シェイクスピア研究会(日時:2016. 4. 25.)において「シェイクスピアの登場人物達の判断と行動の原理についての一考察―『ロミオとジュリエット』における法と宗教の問題を出発点として」と題する発表を、国際シェイクスピア学会(WSC 2016)(日時:2016. 8. 5.)において「The Collaboration of Critics since the Late-Eighteenth Century in Forming Hamlet's Image」と題する研究発表を行った。活字業績としては、5月、熊谷次紘・松浦雄二編『シェイクスピアの作品研究―戯曲と詩、音楽』(英宝社)と題するモノグラフに「シェイクスピア劇における人物の行動規範と観客の共感の原理についての一考察」を、『東洋大学人間総合科学研究所紀要』(第19号:2017. 3.)に「The "Royal Play" of Macbeth Reconsidered」と題する論文を発表した。後者は、平成28年3月にビクトリア大学(カナダ)の人文学部Study Meetingにて発表した際にいただいたコメントを参照して論文に纏めたものである。 18世紀以降にシェイクスピアの「改変」がなされたという前提で研究を進めているが、その過程でまず重要となるのは、現代の批評における盲点でありながら、一方で17世紀にはシェイクスピア劇の「見どころ」の一つであったと考えられる要素について、歴史的な視点に立って解明することである。当時流行した「家庭劇」の要素が『マクベス』の一つの見どころであっただろうし、主人公の心理や行動の動機と関わる「謎」よりもその道化的性格が『ハムレット』では注目されていたと推定される。また、法治体制における倫理観と宗教的道徳観念の相克が、多くの劇の焦点であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでシェイクスピア劇の焦点や人物造形の「変容」を中心に考察してきた。『マクベス』、『オセロー』、『ハムレット』、『ロミオとジュリエット』を中心とする悲劇作品を主に分析してきたが、『間違いの喜劇』、『十二夜』、『冬物語』などの喜劇作品も視野に入れながら18世紀以降における作品の変容過程と変容後の批評において盲点となってきた点に着目してきた。論文として発表した上記の業績は、その思考の過程において生じた副次物 (spin-off) といえる。 他方、18世紀における「シェイクスピア」というイメージの創成についても考察してきた。この時代にシェイクスピアがいかにして「作者」としてのオーソリティーを付与され、そのことが上記した「変容」とどう関わってきたのかについて考察した。最初に「作者」の伝記が書かれ、そのクロノロジーに従って作品が並べられたのはこの時代であったが、サミュエル・ジョンソンの批評に顕著に示されるように、本文の難所(textual cruxes)について「シェイクスピアは何を意図していたのか」という疑問が呈されるようになったのもこの時代であった。その後、シェイクスピアのテクストは「改良」され、芝居も徐々に変容してゆくようになった。 これまでの基本的な研究方法は、① 18世紀において「シェイクスピア」のイメージが創成された過程を文献によって辿り、②ファースト・フォリオを中心とした17世紀の版本とその編集方針について、18世紀におけるそれとの違いを明確化し、③個々の作品を、まず、17世紀の歴史的な文脈と想定される観客/読者の反応を意識しながら再解釈する、というものであった。18世紀のテクスト編纂史を紐解きながら、「変容」がどのような影響を及ぼしているのかについて具体的な資料にあたりながら考察する必要があるが、勤務校での授業やその他業務等との関係で、この作業が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
研究のスタンスは、基本的には今後もこれまでと同様である。①「18世紀において『シェイクスピア』のイメージが創成された過程を文献によって辿る作業」、これはさらに緻密な調査を必要とする。②「ファースト・フォリオを中心とした17世紀の版本とその編集方針について、18世紀におけるそれとの違いを明確化」、これは現段階で基本的な文献収集等は終えてまとめの段階に入っているので、今後は論文にまとめてゆく。②の副次物として、Peter W. M. Blayney, The First Folio of Shakespeare(Washington DC: Folger Shakespeare Library, 1991の監訳および注釈)の原稿が準備できているが、企画出版を引き受けてくれる業者がなく、四苦八苦している。今後も粘り強く出版業者と交渉してゆくが、出版が不可能な場合は、デジタル出版等も視野に入れ、できるだけ早期に成果を公表したい。③「個々の作品を、まず、17世紀の歴史的な文脈と想定される観客/読者の反応を意識しながら再解釈」、この作業は今後も継続してゆく。今年度は、『リチャード三世』を中心に歴史劇と『コリオレイナス』、『ジュリアス・シーザー』を中心にローマ史劇について、それぞれの醍醐味を17世紀の文脈にあてはめて歴史的に再解釈する予定である。①~③と同時進行で、18世紀におけるテクストの「変容」の問題についても、資料を収集し、それらを精査しながら、深く探求していく。 研究成果は、日本シェイクスピア学会、英国シェイクスピア学会、日本英文学会等の機関紙や大会等、国内外の学会にて口頭および論文業績として発表する。
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