18世紀における本文編纂の背景にあったと推測されるシェイクスピア像の創成過程について引き続き考察した。具体的には、2016年の国際シェイクスピア学会(ISA)にて発表した論考の改定作業を行った。この論考は18世紀における『ハムレット』本文の成立過程に着目し、その過程において、当時の上演や批評、時代風潮の中でシェイクスピアの正典化が起こったプロセスをたどり、17世紀の実態とは異なる「正典作家」のイメージが本文成立に与えた影響について考察した。これを論文業績として公表すべく現在調整中である。 また、ピーター・ブレーニー著『シェイクスピアのファースト・フォリオ』(フォルジャー・シェイクスピア図書館、1991年)の翻訳作業を通じて、18世紀以降における正典化のベースとなった『フォリオ』(1623年)が、初演当時の演劇を伝える媒体としていかに信用できないかについて考察し、18世紀後期に起こったこの本の価格高騰現象について批判的に考察した。刊行が遅れているこの翻訳は、2019年度に出版する。 本文成立と関わる研究を遂行する傍ら、神格化されたシェイクスピア像が成立する以前において演劇に多大な影響を与えていた法廷的思考(forensic thinking)について前年度より継続して考察している。その成果として、2019年10月に鹿児島国際大学で開催される日本シェイクスピア学会にて「シェイクスピアと法」と題するセミナーを主催することとなったので、16世紀から18世紀に至る時期における法と文学、演劇の関係性ついて調査・分析を行った。2018年6月にベルファストで開催された英国シェイクスピア学会(BSA)にて「The Impossibility of Turning Rancour to Love in Yukio Ninagawa's Romeo and Juliet」と題する論文を発表した。
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