研究課題
本年度は、『ロビンソン・クルーソー』の日本における受容の研究の成果を、英文で発表することに傾注した。これは、次年度(2019年度)中に公刊予定の論文集に収められることになっている。共著者・編者・出版社等の都合により、最終年度までに公刊を実現させることができなかったが、以下に概略を示す。当該研究が中心的に据えるテクストは、申請者がかねてより研究してきた南洋一郎による再話であるが、当研究は、最初に、明治以来の日本の児童文学史のなかに翻訳・再話が果たしてきた役割を概説する。ここで重要なのは、『イソップ寓話』、『グリム童話』、『不思議の国のアリス』などの本来の子ども向けの作品だけでなく、そもそもは大人向けの小説、メリメやマンスフィールドなどの作品の翻案・再話も雑誌『赤い鳥』などに掲載されていたという点である。当研究はその後、『ロビンソン・クルーソー』受容の歴史を振り返る。ここでも19世紀末以来、この作品は子どもを対象とした再話がなされていたことが確認された。さらに、池田宣政=南洋一郎が近代日本の児童文学に占めた地位も検証した。以上の手続きを踏んだうえで、南による再話テクストの検討を行う。一部は既発表論文の中身を今回の英語論文に活用したが、南が再話にあたって、原作が充分な説明をしないで話しを進めている点を、日本の子どものために丁寧に空白を埋めている点などは新しい指摘である。これまで、日本児童文学史、とくにそれを翻訳との関連で記述した英語文献が極めて少ないことも、今回の論文執筆過程で明らかになり、その点からも当該論文が果たす役割は大きいと思われる。『ロビンソン』の子ども向け再話についての研究が少ないことからも、当該研究は国際的にも意義があると言える。
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