研究課題/領域番号 |
15K02322
|
研究機関 | 和光大学 |
研究代表者 |
宮崎 かすみ 和光大学, 表現学部, 教授 (10255200)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 同性愛 / ワイルド裁判 / イギリス世紀末 / オスカー・ワイルド / 生来性犯罪者 / 変質論 / ハヴロック・エリス / 推理小説 |
研究実績の概要 |
研究開始の一年目にあたる27年度は、学会や外部から依頼・招聘された仕事が大変多く、それらに時間を取られたが、非常に生産的な年ではあった。依頼の多くが前の研究課題による成果に関するテーマが多かったが、なかでも『ワイルド研究』に発表した「ワイルド裁判の歴史的位相」は、前研究課題を学術的に整理した上でまとめたものとなったので、ある意味ではこの研究課題への足掛かりとなる仕事であった。とりわけエリス以前の時代におけるイギリスの同性愛受容史を明快に整理した点では日本で初めての仕事となったと自負している。 27年度は諸般の事情により夏季休暇中の海外渡航ができなかったため、それにかかわる研究はあまり進展することができなかった。28年度に渡航しリカバリーする予定である。 ワイルドに関連することとしては、ケルト文化がワイルドの作品および思考に及ぼした影響について考察する論考をものした(今年度共著書として刊行予定)。これを機にワイルドの「仮面の思想」や「表面と内部のパラドクス」「言説構築主義」ともいえる思考の根本にあるのがケルトの「言霊信仰」やドルイディズムではないかという着想を得たので、28年度中にダブリンに渡航した折にはワイルド両親が刊行したケルトの民話集などについてリサーチをする予定である。 変質論と生来性犯罪者についての論考をまとめ、紀要に発表した。査読段階から高い評価を得ていたが、刊行後にも高今年度も引き続き生来性犯罪者と推理小説との関係についての研究をさらに展開してゆく予定である。 ペイター協会の年次大会シンポジウムにて発表したペイターの研究では、母権論について触れた。イギリスではほとんど受け入れられなかったといわれる母権論であるが、世紀末にかけてのペルセポネ女神のブームと関連があるのではないかと考えられる。この方面での展開の可能性も視野に入れることになる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
依頼された原稿が多かったためテーマが分散した嫌いはあるが、一年目としてはそれぞれのテーマにまずは着手し、地歩を固める作業となったと言えるかと思う。その結果、それぞれのテーマを今後どう展開してゆくかについての展望が得られ、また周囲からの好感触も感じ取ることができた。初年度としてまずは順調な滑り出しと言えよう。
|
今後の研究の推進方策 |
変質論、生来性犯罪者説と推理小説(ホームズ物語)との関係性についての論考の評判がとてもよく、シリーズでこの論考を展開してゆくことと、査読委員から注文をつけられたほどであった。ホームズについてさらに論考を書き、ゆくゆくは書籍としてまとめたいと考えている。 性科学の展開としては、クラフト・エビングの評伝の翻訳の可能性も模索しているが、その前に近代からポストモダンの時代においてのアイデンティティの形成と自己語りという文脈と、クラフト・エビングが集めた症例における自己語りとがどう影響しあっているかについて、論考としてまとめるつもりである。 また、ワイルドの思考におけるケルト文化の影響についても興味深い示唆が得られたので、こちらの研究も進めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の夏季休暇中に予定していた海外渡航(イギリスおよびアイルランド出張)が、家族の予期せぬ事情により渡航ができなくなったため、その分の予算を使用することがなかった。 さらに当該年度は執筆依頼および招聘講演が重なったために、その執筆および準備に時間がとられて、予算の使用に至る研究を重点的に行うことがなかった。 また、当該年度に予定していたパソコンの購入を控えたため、その分の予算消化ができなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
当該年度に起こった予期せぬ出来事が今年度は解消したので、海外渡航を精力的に行うことを予定している。 また、当該年度での基礎作業が終わり、研究の方向性が見えてきたので、書籍を精力的に購入し、研究を遂行する予定である。 さらに、当該年度に予定していたパソコン購入を、次年度に行う。
|