研究課題/領域番号 |
15K02323
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研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
冨樫 剛 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (30326095)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カルペ・ディエム(Carpe diem) / ベアトゥス・イッレ(Beatus ille) / サピエンス(Sapiens) / ホラティウス(Horace) / セネカ(Seneca) / マーヴェル(Marvell) / イギリス / 詩 |
研究実績の概要 |
2016年度の研究実績は以下のとおりである。 1. 2016年6月18日に日本英文学会関東支部夏季大会(青山学院大学)におけるシンポジウム『イギリス・アメリカ文学史補遺――英米文学のなかの非英米文学』にて「カルペ・ディエムの系譜――抵抗の歌、薔薇の歌」という題目で発表をおこない、その後の議論・質疑応答から有意義な情報を得た。2. 同10月29日に日本英文学会中国四国支部秋季大会(愛媛大学)において「カルペ・ディエムの諸系譜――Andrew Marvell, "To His Coy Mistress" を読み直す」という題目で招待発表をおこない、その後の質疑応答から有意義な情報を得た。3. 2017年3月31日にアメリカ・ルネサンス協会のシカゴ大会(Palmer House, Hilton)における "Marvell (III): Marvell and Religion" というパネル・セッションにて "Carpe Diem for the Millenarians?: Rereading 'To His Coy Mistress'”という題目で発表をおこない、その後の議論・質疑応答から有意義な情報を得た。4. 十七世紀英文学会編集による論集『十七世紀の革命/革命の十七世紀』に「今日の花を摘む賢く幸せな人--『トテル撰集』からマーヴェルの『ホラティウス風オード』まで」という題目で論文を投稿した。 以上は、交付申請書中の「研究実施計画」(平成28年度)における1-5に対応するもの、その成果であるが、上記3については、調査・研究上の諸事情により、発表の場をミルトン関係のセミナーからアメリカ・ルネサンス協会のシンポジウムへ、また主題をミルトンからマーヴェルへと変更した。また上記4についても、論文投稿先を個人編集の論集から十七世紀英文学会編のものへと変更した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度の調査・研究により、16-17世紀イギリスに「カルペ・ディエム」の主題が導入され、広まる過程がおよそ理解でき、また概略的・部分的ながらそれを口頭発表し、また一部論文にまとめることができた。(論集への採否は今後決定される予定。) 具体的に得られた知見はおよそ以下のとおりである。 1. 1513年のオウィディウス『恋の技法』散文訳にはじまり、16世紀半ば以降にフランス詩人ロンサールの作品の翻訳・翻案を通じて定着した恋愛の修辞としての「カルペ・ディエム」と、1557年の『トテル撰集』におけるセネカ『パエドラ』・『テュエステス』の部分訳、マルティアリスのエピグラムおよびホラティウスのオードの訳などから連なる「幸せな人」(beatus ille--ホラティウスの言葉)、「賢い人」(sapiens--セネカの言葉)、「心の安らぎ」(ataraxia--エピクロスの言葉)をめぐる哲学的主題としての「カルペ・ディエム」を、明確に区別できるようになった。 2. これにより、ベン・ジョンソン、ロバート・ヘリックらイギリスの詩人たちによる多くのいわゆる「カルペ・ディエム」詩がどの系譜上の作品であるか、従来よりも詳細に論じるための資料・材料を用意できた。 3. さらに、哲学的主題としての「カルペ・ディエム」と17世紀イギリスにおけるルクレティウスの原子論に対する関心のつながりなど、文学史・政治史のみならず科学史的な問題との関連も理解できるようになった。 4. 以上とともに、カルペ・ディエム詩の背景としてのキリスト教思想・「ピューリタン」と呼ばれた人々の出現など、政治史・社会史・思想史的な情報も同時に収集できた。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度以降の調査・研究における方策は以下のとおりである。 1. 2016年度までの研究で得られた材料およびカトゥルスに関して新たに収集する資料をもとに英語による論文を2017-18年のあいだに二本作成する。これらは、前述の「カルペ・ディエム」の主題の二系譜に対応するものとし、それぞれについて社会的・政治的背景とともに16世紀から17世紀半ばまでの発展をたどるものとする予定である。これらにより、(1)セネカ、ホラティウス(のオード)、マルティアリスを導入するという大きな役割を果たした『トテル撰集』(特にトマス・ワイアットとサリー伯ヘンリー・ハワード)の再評価、(2)ホラティウス、セネカ、そしてオウィディウスから連なる諸系譜を集約する役割を果たしたヘリックの再評価、(3)諸カルペ・ディエム詩とその背景としてのキリスト教的・ピューリタン的諸思想・社会活動との対立関係など、当該領域に新しい知見をもたらし広めることができればと考える。 2. 同時に、18世紀以降における「カルぺ・ディエム」、「幸せな人」、「賢い人」、「心の安らぎ」の主題の変容についても調査を進める。その成果は2017年10月28日に開催される日本英文学会関東支部秋季大会のシンポジウム『イギリス・アメリカ文学史補遺2--18世紀の詩』において中間的に発表する予定である。 3. 以上に加え、国内外の学会・研究会における発表の機会を適宜もち、上記1の論文作成に生かしたい。
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