研究課題/領域番号 |
15K02323
|
研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
冨樫 剛 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (30326095)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | カルペ・ディエム(Carpe diem) / ベアトゥス・イッレ(Beatus ille) / サピエンス(Sapiens) / アパテイア(apatheia) / ホラティウス(Horace) / セネカ(Seneca) / イギリス / 詩 |
研究実績の概要 |
1. 論文「今日の花を摘む心安らかで賢い幸せな人:『トテル撰集』からマーヴェルの「ホラティウス風オード」まで」を十七世紀英文学会編『17世紀の革命/革命の17世紀』(金星堂、2017年9月)上にて発表(pp.1-27)。エピクロスの「心の安らぎ」、セネカの「賢い人」、ホラティウスの「幸せな人」・「今日の花を摘もう」という主題が、16世紀の『トテル撰集』以来混淆しつつイギリス詩に導入された過程をたどり、それらがカルヴァン派の予定説や千年王国思想の対立項として発展した経緯を論述した。内乱期のイギリスにおいてこれらの古典的言説は、政治的・社会的議論としての役割を担うものであった。また詩とは現在そうとらえられているような文学・芸術・娯楽の一形態にすぎないものではなく、政治的・社会的論争を担うメディアでもあった。
2. 日本英文学会関東支部第15回大会(10月28日、中央大学・後楽園キャンパス)のためにシンポジウム『イギリス・アメリカ文学史補遺(2):18世紀の詩』を企画し、司会・講師を担当、「古典主義とは何か:反ピューリタン言説から感受性の議論へ」というタイトルにて研究成果を発表。16-17世紀イギリスにおけるギリシャ・ローマ古典翻訳・翻案のありかたを概観し、それが18世紀の感受性の言説に移行していく過程を示した。
3. 科研費基盤研究B「近代イギリス女性作家たちの言語態と他者:感受性、制度、植民地」グループの研究会にて講演(3月27日、上智大学)。タイトルは「抵抗の文化から共感の文化へ:宗教改革以降200年のイギリス文学史」。16-17世紀の古典翻訳・翻案に関するこれまでの研究全体の見取り図を作成するかたちで56,000字程度の原稿を用意し、それをもとに講演した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前述の論文1にて、17世紀前半から半ばにかけてのイギリスにおいてホラティウスのカルペ・ディエム詩が流行した政治的・社会的文脈を明らかにすることができた。また前述の発表2のためにおこなった調査・研究により、16-17世紀の古典翻訳・翻案が17世紀末から18世紀にかけてどのように変容したかを理解する端緒をつかむことができた。さらに前述3の講演のために原稿を作成したことにより、16-18世紀におけるイギリス文学の発展・変化の過程を今後まとめていくうえでの全体像が得られた。概要はおよそ以下のとおりである:宗教改革前後のキリスト教道徳--ピューリタン信仰・道徳の出現--ペトラルカ風恋愛詩--オウィディウス・アウソニウス・ロンサール風の薔薇の恋愛詩--カトゥルスの恋愛詩--オウィディウス風のエロスの詩--セネカ悲劇--へリック、カウリーによるアナクレオン風の詩--ホラティウスの「幸せな人」--反律法主義とカルヴァン派の対立--ルクレティウスの原子論およびエロティックな唯物論--グロティウスの自然法--ケンブリッジ・プラトン派および広教派の理性の神学。
以上、研究自体は順調に進展しているが、めざす研究が極めて大規模なものであることが明らかになり、これを完成させるには今後さらに長期間の調査・研究・論文執筆が必要なので、「やや遅れている」を選択した。
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度の研究計画は以下のとおりである。 1. 12月1日に予定されている日本ミルトン協会の大会におけるシンポジウム『ミルトンと神』(オーガナイザー:江藤あさじ)に講師として登壇予定であり、そこにおいて、宗教改革以来の神学論争を背景に、真摯なキリスト教信仰とギリシャ・ローマ古典に対する深い知識・関心をあわせもつミルトンの詩作品についてあらためて考察する。 2. 現在遂行しているすべての研究の基盤として、あらためて16世紀におけるイギリスのキリスト教信仰や道徳のありかたについて概観し、同時期に流行したペトラルカ風の恋愛詩やオウィディウス・アウソニウス・ロンサール風の薔薇の詩との関連を明らかにする論文の執筆にとりかかる。(日本語・英語は今後決定する予定。) 3. 上記研究の一環として、現在依頼を受けている17世紀イギリス詩研究書の書評、キリスト教事典の項目などを執筆する。 4. 同じく研究の一環として、現在日本語で紹介されていない詩作品や史的資料の日本語訳を進め、ウェブサイト English Poetry in Japanese上での公開を進める。
|