カルペ・ディエムの言説の対立項として本研究において設定してきたキリスト教、特にイングランドにおける宗教改革の経緯や予定神学の広まり・変遷について研究した。具体的にはカルヴァン、ベザらジュネーヴの改革派神学が16世紀後半に英語に翻訳され、それがランベス条項、ドルト公会議用国教会公式見解、ウェストミンスター信条などにおいて実際どのように表現・公式化されているかを精読・調査した。成果として、改革派主流による予定の教義は従来とらえられてきたほど厳格ではないこと、自由意思・意志を(認めないように見えながら)認めていることがわかった。予定の議論のうちには、救済される者は神によってそう予定されている・破滅する者は予定でなく自身の欠陥・過ちのために破滅する、という不整合がある。 次に考えたことは、以上の理解をもとにミルトンの『失楽園』を読むとどのようなことが言えるか、である。1. この詩は予定神学に対抗するかたちで自由意思・意志を主張するとされてきたが、神の予定が明言されている以上むしろこれは予定神学に対する修正の物語と読むべき、2. ミルトンが加えた最大の修正は、カルヴァンらによって破滅予定者とされていたアダムに救済の予定を与えたことである、などという議論を別途記載の研究発表および論文にて提出した(現在査読中)。 加えて、日本英文学会より依頼のあった松本舞『ヘンリー・ヴォーンと賢者の石』の書評を作成して提出した(現在査読中)。これに際し、17世紀半ばのイングランドに広まったベーメの翻訳およびその影響を受けたランター、クエイカーらの著作に関する調査をおこなった。あわせて、ランターらの論敵にあたるケンブリッジ・プラトン派のヘンリー・モアの著作のうち、EEBO未収録の『ヘンリー・モア博士の弁明』の電子データを作成し、所属研究機関の図書館ウェブページにおいて公開した。
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