研究課題/領域番号 |
15K02329
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
金山 亮太 立命館大学, 文学部, 教授 (70224590)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メロドラマ / イングリッシュネス / サヴォイ・オペラ |
研究実績の概要 |
2016年度は、本研究に関わる論文1本、シンポジウムでの発表1回、書評1本を公刊した。 19世紀英国大衆演劇の関係では、「メロドラマがつなぐもの」と題した論文を学会誌に投稿して受理・刊行された。これは2015年度の日本英文学会第87回全国大会でのシンポジウム「メロドラマの諸相」で発表した内容に加筆したものである。本論においては、近代イギリスにおいて独自の発達を遂げたメロドラマがサヴォイ・オペラなどの喜歌劇にも影響を及ぼしたことを論じる一方、今日の視覚芸術の基本となる初期の映画作品にもその痕跡を濃厚にとどめていることを指摘した。ただし、喜劇役者チャップリンの初期の無声映画などにおいて典型的に見られる演出法が、まさしく彼が幼少の頃になじんでいたであろう大衆演劇の手法の延長上にあるという点については、更なる検証を必要とするために本論には含めなかった。また、19世紀英文学の詩人や小説家が、その経歴の初期において劇作にも手を染めていたことに関する専門書(英文)の書評も手掛けた。 イングリッシュネスの関係では、日本ワイルド協会41回全国大会で、オスカー・ワイルドの民族的アイデンティティに関する発表を行った。これは「ワイルドを取り巻く視覚芸術」というシンポジウムの発表者の一人として行ったものである。この発表については『ワイルド研究』に論文の形で投稿することが慫慂されているので、然るべき形で刊行を目指したい。 以上、2年目の成果は、本研究のテーマに従いつつも、いずれも依頼された仕事の後始末といった部分があり、本研究の深化を示すものとはなっていない。2016年度より勤務校が変わったこともあり、新しい環境になじむためにも精力を使ったことが一因と思われる。来年度以降は本腰を入れて本研究の進捗を図りたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの本研究の進捗状況に関しては、順調に来ている部分と遅れ気味になっている部分との格差が開きつつある点が問題である。過去に数回にわたって科研費の受給対象となった19世紀英国大衆演劇に関しては、これまでに入手した文献の調査・研究が遅々とした歩みながらも進展しているのに対し、イングリッシュネスに関係する研究は見るべき成果が挙げられていない。 これは、一つには英文学研究においてイングリッシュネスがテーマになってくるのは20世紀半ば以降、すなわちイギリス文化の絶対的優位性が揺らぎ始めてからのことなのであるのに対し、本研究の対象としている19世紀においては、ケルト系という対抗軸を設定した上でのアングロ・サクソニズムを指しており、文学作品における表象のされ方が一面的、限定的なものになることが多いからである。この時期の大衆演劇に見られるイングリッシュネス表象に関しては一定のパターンがあることが既に複数の作品の分析から明らかになりつつあるが、本研究ではこのような表象が20世紀以降の英文学作品や大衆演劇にどのような影響を及ぼしているかを検証することも課題としており、今後はこの方面での資料収集を継続したい。
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今後の研究の推進方策 |
19世紀大衆演劇が準備したのは、20世紀になって一斉に花開く視覚芸術(特に映画やテレビ)で表象されることになるアングロ・サクソニズムの雛形であった。今日われわれがイギリス的なるものに対して抱く共通イメージは、まさしく19世紀を通じて英国人が自らに課してきた「理想としてのアングロ・サクソン人像」の自己演出の成果である。 今後の研究の方向としては、19世紀以降も引き続き受容され続けている英文学作品が、現在ではどのように解釈あるいは演出されているのかを、映像作品などから検討することになるだろう。たとえば、ある種のコスチューム・ドラマ(19世紀初期のジェーン・オースティンの小説の映画化作品から、「ダウントン・アビー」のように20世紀初期のエドワード朝を舞台にしたテレビドラマに至るまで)において表象されるアングロ・サクソン像が従来のままなのか、それともポスト植民地主義を経て再解釈されるようになった、より中立的なものなのかを検討することである。 さらに本研究を深めるために、今年度の夏季休業中にイギリスに出張して実際の演劇を鑑賞し、そこで観察される解釈や演出などを実地に確かめることを実施したい。ブレグジットに揺れる2017年のイギリスは、再びアングロ・サクソン系対ケルト系の対立が表面化するのか、それとも国内の安定のために一時的な無風状態になるのかは不明であるが、イギリスの将来がかかる問題が発生するたびにイングリッシュネスを巡る言説飛び交うことは間違いない。世相に応じて変幻自在にその表出法が変わるイングリッシュネスの実態を見るのに、今年度は最適と言えそうである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年4月に前任校から現在の勤務校に異動してきたため、2016年度は研究への着手が遅れ、既存の文献を読み進めることはできたものの、最低限必要な学会出張にしか行くことができず(これは勤務校から支出される旅費でまかなった)、本研究用の資料収集のための出張には行くことができなかった。結果的に15万円を計上していた旅費についてはほとんど手付かずの状態となってしまった。 2017年度には海外出張を予定しており、そのための旅費として35万円を計上しているが、国際状況の不安定化が懸念される中、日本円に対する英ポンドの兌換割合についても不透明なところがある。2016年度に生じた旅費の剰余分を2017年夏に予定しているイギリス出張の際に合わせて消化できればと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のように2017年夏季休業中のイギリス出張で過年度の旅費の剰余分を使う予定である。また、リプリント版による新たな19世紀演劇関係資料が入手可能となったことが判明したため、これの追加購入も考慮中である。2018年度が本研究の最終年度となるため、今年度中に予算の過不足については可能な限りなくしておきたいと考えている。
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