研究課題/領域番号 |
15K02329
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
金山 亮太 立命館大学, 文学部, 教授 (70224590)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 英国大衆演劇 / イングリッシュネス / サヴォイ・オペラ / ブレグジット / アイルランド問題 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究実績は以下の通り。 10月に所属学会であるディケンズ・フェロウシップ日本支部の全国大会シンポジウムにおいて登壇者の一人として口頭発表を行う一方、11月には平成28年度の日本ワイルド協会の全国大会シンポジウム(平成28年12月)に招待されて発表した内容が、『オスカー・ワイルド研究』16号に論文として掲載された。 本研究の主題「19世紀英国大衆演劇とイングリッシュネスの影響関係に関する研究」に関して言うならば、後者の論文において論じられたオスカー・ワイルドと19世紀末アイルランド問題に関する部分がそれに相当する。前者の口頭発表の内容は平成30年度中に論文集としてまとめられることになっているが、その論旨は本科研費の研究と直接関わるところはない。ただし、その準備段階で調査した文献の中に、イングリッシュネス意識の形成と関わるギッシングの書簡が含まれていたことは嬉しい誤算であった。これは今年度の研究において利用するつもりである。 平成29年度の最大の収穫としては、8月に連合王国ハロゲート市に約1週間滞在し、19世紀英国大衆演劇の一つであるサヴォイ・オペラを約10作鑑賞することができたことが挙げられる。また、サヴォイ・オペラ愛好者である10年来の知人と旧交を温め、英国大衆演劇に対する一般的な英国人の捉え方を知ったことも大いに有益であった。同じ連合王国に住みながらもイングランド人とスコットランド人とではブレグジットに対する姿勢が異なることを、母国に対する彼らのコミットメントの差から説明されたが、これこそまさしくイングリッシュネスというアイデンティティが時代の要請に従って捏造されたことの証左であるという印象を受けた。この発見を生かして最終年度の研究まとめにつなげていきたいと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に英国大衆演劇の実物を数多く鑑賞する機会が与えられたことで、曖昧な点が残っていたイングリッシュネス形成の背景についていくつか有益な視点が得られた。また、遅れがちであった、科研費によって購入した文献の調査も平成29年度にはほぼ順調に進み、アイルランドに関する記述に興味深い見解を発見することができた。 イギリスは英国国教会を主たる宗教制度としているが、ヴィクトリア朝にはカソリックに対する反感が強まった時期であり、従来はオックスフォード運動のバックラッシュ、あるいはライバル国フランスの影響関係から説明されていたが、むしろ同じくカソリック国であるアイルランドに対する警戒心が背後にあったのではないかという発想に至った。 19世紀初期に連合王国に最後に併合されたアイルランドは、長年にわたるイングランド不在地主の土地支配に苦しめられており、1840年代のジャガイモ飢饉などによる大量の餓死者とアメリカなどに大量の移住者を出したことから民族存亡の危機に直面し、彼らの主張を受けた英国自由党はアイルランド自治法などの形で彼らの主権回復を目指すようになる。このことへの反発から、19世紀英国大衆演劇におけるアイルランド表象の偏向が説明可能になり、そこで生成された歪んだアイルランドのイメージが今日まで影を落としていることが理解できた。 イングリッシュネスという民族意識の生成には、それと対になる概念が存在するはずとこれまで考えてきていたが、今回の発見により、むしろアイルランドを対抗軸として策定することによって非・アイルランド的なるものが創造され、それがイングリッシュネスの核になったのではないかという仮説が生まれてきた。最終年度に当たる今年は、この仮説の検証に当てたいと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たる平成30年度に、過去4年間の知見をまとめた論文を執筆し、勤務校である立命館大学英米文学会が出版を予定している記念論文集に投稿する予定である。平成30年8月に締め切られる予定の論文集は、平成31年度中の発刊を目指しており、今回の研究成果を広く世に問うことが可能になる。その準備として、平成30年度は、残されている文献の更なる調査と、これまでも進めてきているサヴォイ・オペラの翻訳を少しずつ続けていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
海外出張の期間が公務によって2日短縮されてしまったために、旅費の支出が予定よりも抑えられたことと、円高差益の影響により、購入予定だった複数の文献の価格が下がったことにより、約6万円の差額が生じた。平成30年度は最終年度に当たるので、本研究の遂行のためにも早い段階で使途方針を明確にし、計画的に支出を行う予定である。
|