研究課題/領域番号 |
15K02332
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤田 緑 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (10219024)
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研究分担者 |
佐藤 研一 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (80170744)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 南アフリカ / ボーア戦争 / マフェキング / ポール・クリューガー / ウィンストン・チャーチル |
研究実績の概要 |
19世紀以降アフリカ大陸で展開された数多い「局地戦争」のなかでも、19世紀末南アフリカで勃発した「ボーア戦争」、ならびに20世紀中葉に東アフリカの英領ケニアで土地奪還から始まり最終的には独立運動へと展開した「マウマウ戦争」を取り上げ、戦争の実相と近代文芸・社会に与えた影響を解明するのが本研究の目的である。具体的にはそれらの戦争に直接係った、あるいはほぼ同時代を生きた作家、チャールズ・ボズマンやングギ・ワ・ジオンゴの作品分析を通して、戦争当事者の生活、精神性、抵抗の奇跡等を明らかにし、市井の人々にもたらす戦争の惨禍──文化・伝統の破壊、アイデンティティ・クライシス等の実態を詳かにする。また、これらの戦争がヨーロッパ、オーストラリア、日本等の他地域に与えた影響の究明も目指す。 本年度は南アフリカのボーア戦争に焦点を絞り、ボーア戦争受容を考察するうえで前提となるイギリスにおけるアフリカ認識を確認し、ボーア戦争に関するイギリス側の資料収集、ならびにドイツにおけるボーア戦争受容に関する資料収集とその分析に努めた。 夏季休暇を利用して藤田は英国図書館にてボーア戦争従軍記等の文献を渉猟するとともに戦争文学(ボズマン)に関する調査に着手した。佐藤に関しては、ザグセン州立図書館では基礎的文献を、オーストリア国立図書館ではドイツ・オーストリアにおけるボーア戦争の影響に関する文献渉猟、資料調査を実施した。その結果、イギリスでもドイツでもボーアの土着性に対する共感が見られたこと、トランスバール共和国大統領ポール・クリューガーがドイツ系である点が、とりわけドイツ語圏におけるボーア人への深い共鳴を呼んだことが浮き彫りとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
おおむね順調だが、ボーア戦争関連の文献資料は膨大であることから、若干の遅れが生じている。受容や影響を論じる際、ボーア戦争の文化的側面も重要な要素となるも、戦争を称揚するために作られた商品、いわゆるボーア戦争関連グッズの調査には至っていない。やや遅れたもう一つの要因は、南アフリカ人作家、チャールズ・ボズマンがこれまで等閑に付された人物であるため、経歴を纏める作業に予想を超える時間を要することにある。
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今後の研究の推進方策 |
やや遅れ気味ではあるが、文献に関する悉皆調査は継続し、当該戦争の資料に関する基礎基盤を築きたい。取り上げる個別の著作に関しては、当初の計画より制約をかけざるを得ない場合も想定されるが、その際には、分担者と慎重に協議して選定に臨む。 2016年度後半は、東アフリカの「マウマウ戦争」に関する文献調査を開始し、イギリス、ドイツ、日本におけるマウマウ戦争への関与とその受容について検討する。できれば、ングギの作品分析に入りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由は、急遽来日したポモナ大学クリタ教授とのセッションが叶ったことにより、国内旅費が、当初計画を上回ったためである。セッションを通じて、アメリカ大陸におけるボーア戦争受容の実態は、①多くの義勇兵が南アへ向かったカナダと合衆国とではおのずから異なること、②合衆国内でも東部と西部とでは戦争に対する温度差があり、それは一つには移民の構成の違いによること、等の知見を得た。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の計画どおり、2016年にポモナ大学クリタ教授は来日するが、文献調査として計上している国内旅費を調整することで、本年度計画になんら支障をきたすことはない。
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