研究課題/領域番号 |
15K02333
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
竹谷 悦子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (60245933)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アフリカ系アメリカ文学 / 航空時代 / グローバリズム / 空間認識 / ウォルター・ホワイト |
研究実績の概要 |
本研究は、アフリカ系アメリカ作家、芸術家、知識人らが形成した航空時代の「グローバルな想像力」を検証するものである。1940年代に、大西洋を中心としたアフリカ系アメリカ人たちの世界観、ボール・ギルロイのタームを借りれば「黒い大西洋」を支えたメルカトル図法は急速にそのナラティブ・パワーを失っていった。その代わりにアメリカの新しい地図投影法として広く受け入れられていったのが、リチャード・エデス・ハリソンの『ひとつの世界』に代表される北極点を中心とした正距方位図法であった。
本研究は、この時空間パラダイムシフトにより、アフリカ系アメリカ文学の地理的想像力に加えられた変更を解明するものである。本年度は、ウォルター・ホワイト(Walter White)を中心に分析を行った。文学史においては、小説家としてよりも、「全米黒人地位向上協会」の公民権運動指導者として記憶されることが多い作家であるが、変容する惑星の時空間、「航空時代のグローバリズム」の座標系を移動した先駆的なグローブ・トロッターとして再評価されてよいだろう。ホワイトは市民の海外渡航が事実上禁止されていた第二次大戦中、二度にわたり航空旅行をしている。本年度は、それらの経験から生み出された作品群を分析し、アフリカ系アメリカ文学の想像力が半球思考を超克し、「黒い大西洋」とは異質の、新しい空間認識を形成していったプロセスを明らかにした。
この研究成果は、論文としてArchipelagic American Studies: Decontinentalizing the Study of American Cultureに収録され、アメリカのデューク大学出版局から2017年に出版される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度はウォルター・ホワイトを取り上げ、「黒い大西洋」から「空の時代のグローバリズム」(Air-Age Globalism)への移行の時代にあって、アフリカ系アメリカ文学がどのように新しい地理的想像力の物語を生成していったかを解明し、その成果を論文のかたちで仕上げた。この論文は、アメリカのデューク大学出版局から2017年に出版されるアメリカ研究の論集に収録されている。
さらに1940年代の航空時代を象徴する、航空機とラジオ電波を駆使した冷戦初期の文化外交の担い手となったアフリカ系アメリカ女性であるイーディス・サンプソンの研究を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
28年度は、トルーマン大統領によって黒人初の米国国連使節に任命されたイーディス・サンプソンによる国連でのミッションを研究する。サンプソンに与えられた課題は、シベリアに抑留された日本兵や民間人の問題を国連に持ち込み、ソ連を追及することであった。ハーバード大学シュレシンジャー図書館所蔵のEdith S. Sampson Papers、とりわけ国連スピーチを緻密に分析し、冷戦期の黒人女性のグローバルな想像力と隷属を検証する予定である。
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