研究課題/領域番号 |
15K02333
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
竹谷 悦子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (60245933)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | アフリカ系アメリカ文学 / 国連 / シベリア抑留 / イーディス・サンプソン / 冷戦 |
研究実績の概要 |
本研究は、時空間パラダイムシフトにより、アフリカ系アメリカ文学の地理的想像力に加えられた変更を解明するものである。大西洋を中心としたアフリカ系アメリカ作家たちの世界観--ボール・ギルロイが「黒い大西洋」と呼んだ海洋パラダイム--は、航空時代の到来とともに、そのナラティブ・パワーを急速に失う。本研究は、この変容した惑星の時空間、歴史家アラン・ヘンリクソンのタームを借りれば「航空時代のグローバリズム」(air-age globalism)、をアフリカ系アメリカ文学史の中心軸に再布置することで、どのような新しい文学史の地平が立ち現れるかを考察するものである。
本年度は、1940年代の航空時代を象徴する、航空機とラジオ電波を駆使した冷戦初期の文化外交の担い手となり、33000マイルにおよぶAmerica’s Town Meeting of the Airの世界一周ツアーを行ったアフリカ系アメリカ女性弁護士イーディス・サンプソンのグローバルな想像力を検証した。サンプソンは、このツアーの成功で、アメリカ黒人の「声」となり、トルーマン大統領により黒人初の米国国連使節に任命されている。本研究では、ハーバード大学シュレシンジャー図書館所蔵Edith Sampson Papersの膨大な資料を分析し、先駆的な黒人女性グローブ・トロッターであるサンプソンが、従来の黒い大西洋とは異なる隷属と自由の世界像をどのように描いていったかを考察した。
さらに、本年度は大恐慌の時代におけるアフリカ系アメリカ人の地理的な想像力についての論文をまとめた。その研究成果はAmerican Literature in Transition: The 1930sに収録され、Cambridge University Pressから出版される予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、トルーマン大統領によって黒人初の米国国連使節に任命されたイーディス・サンプソンのスピーチ原稿(ハーバード大学シュレシンジャー図書館所蔵)を分析し、黒人女性のグローバルな想像力を稼働させた隷属と自由の問題のダイナミズムを検証した。国連でサンプソンに与えられた課題は、シベリアに抑留された日本兵や民間人をめぐる未解決の捕虜問題を国連に持ち込み、ソ連を追及することであったが、サンプソンはこの隷属の問題を米ソ冷戦ではなく、アジアにおける未完の再建の問題として、読み直していることを明らかにした。
また本年度は、大恐慌の時代におけるアフリカ系アメリカ人の地理的な想像力についての論文をまとめた。American Literature in Transition: The 1930sに収録され、Cambridge University Pressから出版される予定である。
さらにアメリカの黒人パフォーミング・アーチストで作家でもあるジョセフィン・ベーカーの研究に着手した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の研究成果は、現在執筆中の英文の研究書の第1章と第2章としてまとめる予定である。さらに、本年度着手した、アメリカの黒人パフォーミング・アーチストで作家でもあるジョセフィン・ベーカーの自伝や彼女が執筆した児童文学、書簡等を分析し、航空時代の想像力がどのようにベーカーの「虹の部族」という国際養子縁組プロジェクト形成に影響を与えたかを検証する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
アメリカの黒人パフォーミング・アーチストで作家でもあるジョセフィン・ベーカーの資料(ハーバード大学ホートン図書館所蔵のJosephine Baker papers)の調査・収集のため渡米の予定であったが、図書館が資料をPDFで送付してくれたため渡航の必要がなくなり、旅費を使用しなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
来年度は米国ワシントンの議会図書館およびニューヨークのションバーグ黒人文化研究センターに資料収集のため渡米する予定であり、その旅費の一部として使用する。
|