研究課題
平成29年度には、イェイツの後期の劇作『復活』(1934)について、考察を深めた。イェイツの『復活』では、楽師たちの歌による暗示的・象徴的な枠組みを残しつつも、能をモデルとした演劇形式がゆるやかになっており、むしろ期せずして、能よりは狂言の形式に近づいているという従来のイェイツ研究でこれまで取られてこなかったアプローチを試みた。イェイツより時代は下るが、九世三宅藤九郎は、新作狂言『十字架』(1957)、『復活』(1958)を自作自演している。藤九郎の『十字架』では、狂言の演技の真髄とも言える登場人物の活写による奇跡の現出が伺えるが、イェイツの『復活』もまた、狂言の作法にも似て、奇跡の出現は、登場人物たちによる場面の描出の積み重ねによって成り立っている。一方で、イェイツの『復活』では、狂言の必須の要素「笑い」が、奇跡と結びあわされ、プラトンが批判する笑い――理性の制御を失った状態をむしろ新たな啓示として提示しており、霊であり肉であるダイモーンの出現へと繋がっていくさまが劇化されていると論じた。また平成29年度には、イェイツが日本の狂言を模したと述べている『猫と月』(1917)の構造を分析した論文が、Irish University Reviewに掲載された。「足の悪い男」(魂)「目の見えない男」(肉体)の双方に幸福な結末が訪れるこの劇作は、イェイツ劇において特異な位置を占め、サウンド・シンボリズムがその象徴的劇構造を支えていることを明らかにした。さらに、イェイツの『自伝』の重要な一部を成す「幼年時代と青春期についての夢想」(1914)についても、劇作とは異なるジャンルながら、能から学んだ技法が受け継がれている点に着目して論文をまとめた。記憶に呼び起される断片の連続によって、父の影響を脱する少年の自立と神秘的かつ民族主義的詩人の誕生の軌跡が象徴的に描きだされていると論じた。
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Journal of Irish Studies
巻: 32 ページ: 23-34
Irish University Review
巻: Vol.47, No.2 ページ: 298-314
イェイツ研究
巻: 48 ページ: 32-49