研究課題/領域番号 |
15K02335
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
井上 間従文 一橋大学, 言語社会研究科, 准教授 (50511630)
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研究分担者 |
越智 博美 一橋大学, 商学研究科, 教授 (90251727)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トランスパシフィック・アメリカ文学 / 美学理論 / 冷戦研究 |
研究実績の概要 |
井上は主にアジア/アメリカをめぐる戦後文学空間におけるアドルノの美学理論の応用可能性について研究を行った。関連分野であるアジア系アメリカ文学の詩において実験的フォームが意味に及ぼす影響について研究を進めるDorothy Wang氏と共同で、アメリカのモダニスト学会にて人種化への抵抗と詩的フォームとの関連をめぐるパネルを立案し、論文発表を行った。またWang氏の著書の本格的な英語書評を米国の学会誌Criticismに掲載することが決定している。また米軍統治下の沖縄における芸術表現の政治・倫理的位相をめぐる研究においても、抽象画家安谷屋正義が1960年代に主に米軍基地などを描いた抽象風景絵画における身体と物体のフォームのゆらぎについて、前述のアドルノやさらにはジャン=リュック・ナンシーにおける美と崇高の往還、相補関係に関する理論を導入することで、より一層精緻な研究を進めた。こちらも井上が以前に日本語で執筆した論文を大幅に改稿した英語論文の刊行を現在準備中である。またヴェトナム戦争期における人種の図式への批判を、色の経験を研ぎ澄ませることで追求したStepehn Wright, Monique Truong, Madeleine Thienなどの作家たちについての研究を進めた。Thien氏とは実際に同テーマについての議論を行う場を持ち、今後の研究への土台となる知見を得た。 越智は特に冷戦期日本における新批評理論という枠組みが導入される際の研究機関、文化財団、知識人等の日米間の往来に着目し、その文脈における日本国内でのT.S.エリオット及びウィリアム・フォークナー受容の研究を行った。この研究においてロックフェラー財団等が冷戦期日本におけるアメリカ文学研究の制度化に果たした役割、および冷戦型「個人主義」および「国民主義」を日本に根付かせた契機等について口頭発表と論文執筆を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
井上は国際学会(台湾、韓国など)への招へい参加、および海外の研究者の招へい講演の実施などを通して、研究対象を大幅に拡げることが可能となり、当初予定していた研究手法に基づきながらより多様な詩人、小説家たちをめぐる研究成果を構想することが可能となった。これらの成果はアメリカの学会誌への投稿論文掲載決定および書評論文執筆依頼などに結実しており、予定以上の進捗状況にあると言える。 越智も同様に、これまで進めて来た作家研究(エリオット、フォークナー等)に制度史研究の手法を突き合わせることで、ロックフェラー財団等をめぐる実証研究を大きく進めることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今後も分担研究者である越智博美との共同のもとに、美的形式と制度的形成とを接続する研究を進める。井上は美学理論とトランスパシフィック・アメリカ文学の接点をめぐる研究を一層精緻化し、同時に当初の予定通り映像・映画芸術作品の研究と文学研究の架橋を行う。越智は冷戦期日本にて活躍したアメリカ人日本文学者・翻訳者と新批評との関係性についての本格的な調査と研究に着手する。
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