本研究は19世紀アメリカの特に南北戦争とその後の時代に発表された文学作品において描写されている、社会に適合できない「失敗者」と「逸脱者」の表象を考察するものである。今年度は補助金を用い、2018年7月に米国カリフォルニア大学バークレー校図書館に設置されているマーク・トウェイン・プロジェクトを訪問した。申請者はトウェインに大きな影響を与えたにも関わらず、そのほぼ一生をアメリカ社会の「失敗者(failure)」として過ごすこととなった兄、オリオン・クレメンズが彼や他の家族に送った書簡のデジタル化作業を、これらのオンライン・データベース化、また最終的には書籍化(米・日)を目指して進めてきている。今回の訪問では、主にトウェインに向けて1887年と1888年に送られた書簡のデジタル化作業と内容の考察を集中して行うことが出来た。オリオン・クレメンズの書簡は、これまで部分的な利用こそ行われてきたが、現存する書簡全てをまとめる試みは行われていない。書簡はトウェインの作品に対する直接的、あるいは間接的な影響を思わせる記述が数多く含まれているもので、全体として非常に重要な資料となり得る。同プロジェクトとの綿密な協力で成り立っている本事業は完了にあと数年ほどを要すると思われる。 続いて2019年3月には南北戦争時の医学の記録について、国会図書館を訪問し資料を閲覧、一部を複写で入手することが出来た。現在はそれらの資料を用いた成果をまとめる論文を執筆中であるが、この年度末の業績として報告できなかったのは大変残念なことであった。成果が学術雑誌等に掲載され次第、研究成果発表報告書により追加の業績として報告する。
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