「理論以後」とされる1990年代以降のパラダイム転換を経て、アメリカ演劇の実践と研究とを取り結ぶ批評理論の可能性について再考するという、本研究課題全体の当初設定された目的は十分達成されたと思われる。特にパフォーマンス理論およびアフェクト理論の応用については、学会発表および論文執筆の形で継続的に検討を行い、自身およびアメリカ演劇研究全体にとって有益な情報を蓄積し、研究方法論を構築することができた。平均して年に3本以上の研究発表を行ったが、論文として未刊行のままのものがあるため、それらについては順次学会誌、書籍、紀要等の場で発表する予定である。 また平成28年~30年度に実施した基盤研究(B)(一般)の共同研究(課題番号:16H03395、課題名:「ホームランド」の政治学――アメリカ文学における帰属と越境の力学に関する研究、研究代表者:小谷耕二)においてアメリカ演劇部門を分担したが、同課題で通史的・帰納的視点からアメリカ演劇を概観したことが、本課題における共時的・演繹的アプローチの弱点を補強する形となった。またこれら二つの研究から派生する形で、平成31年度より、アメリカ演劇における家族表象の歴史的変遷と文化的多様性に関する研究を行うこととなった。発展的に、本課題における研究を継続してゆく予定である。 本研究課題の最終年度にあたる平成30年度には、計3本の研究発表(全てシンポジウムでの報告で、うち1本については企画および司会も兼ねた)を行い、過去の発表をもとに1本の論文を執筆し、上記基盤研究(B)の成果として刊行された書籍に収録された。特に後者の論文は、研究課題の期間を通して考え続けてきた「演劇らしさ」をめぐる問題について現時点での一定の結論を出すものとして、本研究課題における特筆すべき成果に位置づけられるものとなっている。
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