本研究は、イギリス人を中心としたアイルランド旅行者の手になる旅行記とアイルランド小説の影響関係について、1780年から1864年の時期に焦点を合わせて解明するものとなった。旅行記では、旅行者の訪れる場所や地域に共通性が見られ、テキストの反復や改変、また、過去の旅行記からの引用が盛り込まれるという特徴が見られる。そうした一定の枠組みを持つ旅行記を意識してメッセージ性を持った小説が書かれたり、また、小説で舞台となった地域へ旅行者が訪れ、旅行記が書かれたりもする。そこには、挿絵も絡み、ある特定のイメージの構築と反復とともに、差異による新たな世界の想像も展開されるのである。
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